亜佐美の場合 ②秘密はタイにある
私が初めて、タイに行ったのは21歳の頃。
その頃アメリカに留学していた姉の美紗より、日本人向けのフリーペーパーで
卵子提供者を募集する広告の話を聞いたのだ。
帰国した美沙は、日本の事務所に問い合わせ、提供者の登録をした。
それからしばらくして先方よりメールが届き、タイに渡り無事提供者として
仕事を果たしたそうだ。
指定されたホテルに泊まり、一度に多くの卵子が採集できるように、
クリニックで排卵誘発剤の注射をする日が10日ほど続くが、飲酒と喫煙が禁止なだけで
後はフリーに過ごし、買い物や観光も楽しんだそうだ。
採卵は、全身麻酔で行われるので、眠っている間に事は済むと話した。
結果2週間の滞在で、数十万の報酬がもらえたという。
『遊んで、困ってる人の役にも立って、こんないいバイトないと思わない??』
美沙があまりに楽しげに話すので、刺激を受けた亜佐美も提供者の登録をした。
業者との契約で、提供者の相手を知ることもないし、生まれた子供が将来
連絡を取りに来る事もないから心配ないと美沙は話した。
最近、卵子提供を受ける為タイに渡る日本人女性は増える一方らしい。
以前は韓国が卵子提供ビジネスが盛んだったが、規制強化のため
仲介業者がタイに移った。
費用もアメリカより安価で、日本から近いと言う事もあり、密かに広がりつつある。
それに提供者が同じ東洋人というのも安心感があるからだと言われている。
しかし日本人夫婦は、同じ日本人の卵子を希望するので、提供者の募集に積極的なのだ。
亜佐美も学生時代に3回タイに渡り、卵子を提供した。
3回目は、就職も決まった卒業前。
一哉との別れも意識した卒業旅行のつもりで思い切り楽しんできた。
報酬は、新しい住居の引っ越し費用にあてた。
バイトも辞めた為、一哉とも顔を合わす間もない。
電話番号も変えて、連絡も絶っていた。
彼にタイ行きを勧めた事もいつのまにか忘れていた。
卒業すれば、新しい生活、新しい自分が始まる。
そのまま、いい思いでだけ残し、二人の関係はフェイドアウトする・・
そう思っていた。
それからしばらくして風の噂で、一哉に子供が出来たと聞く。
私は素直に、よかったと思った。しかし、それが
自分がタイに行った頃とリンクするなんて想像もしなかったのだ。