公彦の場合 ⑨意外な結末
その後、公彦は冴子を会社の玄関前で見つける。
公彦は一言礼を言いたくて、
夕暮れ、帰宅を急ぐ人の群れの中で、冴子を待っていた。
冴子は、公彦の顔を見るなり、にこっと笑う。
『事態は一段落したみたいね。』
『ええ、あなたの言う通りだった。ありがとう。息子は助かりました。』
涼介は一週間ほど入院後、学校に行かなくなったが、
その後転校の手続きをとって他校に転入することになって、随分
落ち着いたようだった。
夏休み中は、修子の実家の造園業を手伝い、笑顔も見られるようにもなった。
公彦と修子は、ひとまず安心したのだ。
『でも、安心しちゃダメよ。またもう一波乱あるから。』
『えっ?それはどういう・・・?』
『・・・ソレは、直にわかるわ。』
『・・・・』
冴子はそう言うと、意味ありげに微笑み、帰っていった。
またしても、煙に巻かれたような気持ちでいる公彦だった。
(もう一波乱?何なんだ・・・・)
翌年、修子は女の子を産んだ。名前は優美。
歳の離れた妹を涼介は可愛がっていた。
表面上、おだやかな日々が過ぎていく。
それから、優美が歩き出した頃、公彦が会社の部下を家に連れて来る。
玄関に出た修子は絶句。涼介の家庭教師だった山本裕真だった。
(なんで?)
裕真は、驚く修子をよそにすました顔で居間に座った。
公彦は、にこやかに裕真にビールをすすめる。
二人は帰りにばったり駅前で会ったという。
『いやあ、彼がうちの涼介の家庭教師だったとはね、今日初めて聞いて驚いたよ。』
公彦は終始上機嫌だった。
また子育てに忙しくなった修子には、裕真がまぶしく見えた。
その夜、自分の気持ちが押さえきれず、裕真にメールする修子。
(あなた、今も素敵で、びっくりした。私はすっかりオバサンで恥ずかしかったわ・・)
すぐに、返事をくれた裕真。
(そんなことないよ。修子さんはキレイだって。でも・・もうメールはダメだから)
(そうよね、わかってるけど・・・私は・・今でも・・)
(気持ちは嬉しいけど、オレ、好きな人いるから。それに、丸山課長、いい人で
好きなんだ。尊敬してる。だから、ゴメン。さよなら。ありがとう、修子さん。)
あの裕真に好きな人?涙がでる。
寂しさと切なさに、修子は胸がしめつけられるのだった。
その裕真の好きな人はあの内宮冴子。
『あなた、優秀だけど、とっても邪悪!!』
廊下ですれ違った裕真に、そう言い捨てた冴子に一目惚れした。
(邪悪なオレ、もっと叱ってください。冴子さん!!)と恋している。
大学卒業後、某企業の研究室に入った涼介。
ある日、連れてきた恋人に、公彦と修子は驚いた。
中学校時代、涼介をイジメた主犯格の北山雅史だった。
あの頃の自分たちは、自分の本心にとまどっていたと笑顔で話す二人。
同性愛者であることをカミングアウトした涼介に、公彦と修子は心中穏やかでなかったが、
死なれるよりはマシと思うしかなかった。