公彦の場合 ⑧天罰が下る夜
(天罰が下ったんだわ・・)
修子は、手術室の前で、そう考えて涙していた。
自分が若い男や、夫以外の男達と遊んで有頂天になっている間に、
息子が苦しんでいたのだ。申し訳なさでいっぱいだった。
しかし何の因果で、自分の息子が嫌われなきゃならないんだろう?
どうして、あんなに傷だらけにされなきゃいけないのだろう?
いくら考えてもわからない。あの子が何をしたと言うの?
(きっと、私の行いが悪いせいだ・・ごめん、涼介、ごめん・・)
後悔でとめどなく涙が溢れた。
昼前、試験で早めに帰宅した涼介。そしてしばらくすると、
台所で昼食の用意をしていた修子の後ろに、涼介が音もなく立っていた。
振り向くと顔が真っ青で、生気がない。まるで幽霊のようだと
修子はぞっとする。
『涼ちゃん、どうしたの?びっくりした・・・。』
『母さん。見たんだね・・。』
『え?・・・何のこと?』
『・・・・・』
修子は、自分が投げ出した藁人形の事を言っているのだと思いながら、
知らぬ振りをする。
すると涼介は、顔を歪めて、振り切るように2階に駆け上って行った。
『涼ちゃん、待って!待って!』
イヤな予感がする。
修子も2階に駆け上り、涼介の部屋のドアを開けた。
(!?)
みると涼介が倒れていた。苦しそうに顔を歪め気を失っている涼介。
発作的に首をつろうとしたらしい。
まだ息があった。
『涼ちゃん、涼ちゃん!!!』抱き上げて、ただ泣くしかなかった。
そして救急車を呼び、必死で病院に駆けつけ、夫の公彦に電話したが、
実感がないのだ。全てが夢の中の出来事のように思う。
後少し発見が遅かったら助からなかっただろうと医師に言われた。
公彦が駆けつけた時には、手術が終わり病室に移動していた。
『涼介、どうしちゃったんだよ。何があったんだよ。』
うなだれた公彦に、修子はかける言葉もない。
夫婦で息子の回復を祈るだけだった。
学校に連絡すると、担任教師は事務的に応対するだけだった。
急病で入院したとクラスに伝えると話した。その声は冷たく
ロボットと話してるみたいに思えた。
きっと、イジメで自殺未遂とは認めたくないのだろう。
他人事のように思っていた事が、我が身に降りかかっていると実感した。
しかし、犯人探しに消耗するのはイヤだと思う。
幸い息子は助かったから、警察に被害届を出す事を選択した。
涼介が落ち着いたら、転校させればいいだけだと思う公彦。
『ねえ、あなた・・』
『なに?』
『もう一人、子供が欲しくなったわ。私。』
『え?』
『涼介がもしかしたらっと思うとぞっとした。もう一人支えが欲しい。』
『・・・・』
修子はその後妊娠した。