公彦の場合 ⑥呪われた彼?
帰宅してから、修子は裕真に言われたことを考えた。
(最近、涼介に変わったところはない?)
もともと女の子のように大人しい息子。
それに、思春期の男の子だから、部屋の出入りにも気をつけていたので
さして変化を思いつかない。
それより、若い男に呼び出されて、おしゃれしてホイホイ出かけた自分が
惨めに思えた。ミニスカートが無様に思える。
(なんだ、息子のこと?)と言った自分を思い切り軽蔑したような裕真の目
(このオレが、あんたをまともに相手すると思った?)と
言われてる気がした。
(悔しい・・・・)
でも・・・そう言えば・・確かに思い当たる節はある。
以前にもまして口数が少なく、親の目を避けるようになった。
掃除は自分でするから、部屋に出入りするなとキツク言う。
ゴミもコソコソ捨てているようだ。
何か隠している・・?そう思うと、心が泡立つ。
修子は、思い切って、涼介の部屋に入ってみた。
几帳面なので、一見整理されてはいるが、妙な空気が部屋全体に漂っている。
引き出しを開けてみると、修子の手が止まった。
(死ね!)の文字が連なるノート。一面びっしり書き込んである。
涼介なのか?クラスの誰かなのか?わからない。
震える手で、預金通帳に手を伸ばしてみた。
お年玉など貯めていたはずなのに、万単位でみるみる残額が減っている。
(・・・・これって、もしか・・・イジメ?)
ゴミ箱にも、血の付いた包帯が捨てられている。下着もあった。
顔に傷がないから、親が気がつかないような箇所を殴られたり
蹴られたりしているのかもしれない。
(そう言えば・・あの日?)
ズボンやシャツを汚して帰る事もあった。
修子は、そんなのよくあることだからと気にもしなかった。
そして、机の引き出しから、もっとぞっとする物を見つけた。
名前のついた藁人形が2体。一つは涼介、手足・心臓に釘が打たれた跡がある。
そしてもう一つは、北山雅也???まだ、新しい。
北山?クラスの子供だ。成績優秀な委員長で、親がPTA会長である。
キャーッ!!修子は恐ろしくて、その藁人形を放り投げて、
部屋を飛び出したのだった。
その頃、社員食堂でご飯を食べる公彦。
『ココ、空いてますか?』
公彦が、顔を上げると、あの若い女性が立っている。
『君・・・。』
『丸山さん、久しぶり。』
女性は、にっと笑った。