公彦の場合 ②おせっかいな彼女
それから彼女は、風呂の湯を入れ出した。
「あのさ、丸山さん、家族いるの?」
長い髪をまとめながら、公彦に聞く。
「いるけど、個人情報だから教えない。知らない人に教えないよ。」
公彦は口を尖らせて応戦する。
(あんた、何で、ため口なの???)
「ああ、なるほどねえ。じゃあ、当ててみましょうか?
奥さんと息子さん。息子さん、中学生くらいでしよ。」
彼女は鏡ごしに、イタズラっぽく言う。
(ゲッ、何でわかる?) と一瞬思うが、自分の年ならそれくらい予想がつくかもと考え直す。
大学を卒業と同時に子供ができて結婚したので、世間一般に比べたら早婚だった。
その息子の涼介は、中学2年生。
妻の修子は、実家の造園業の経理をしている。
若い夫婦がなんとかやってこれたのは、妻の実家のおかげだ。
そんな事を考えていると、浴室から水を流す音が聞こえた。
いつのまにか、瞬間移動したみたいにいなくなっていた。
(いったい、どこのドイツなんだ???)
本人の素性を表す何かがないか荷物を探すが、抜け目無く洗面所に持っていって
鍵をかけていた。
『ああ、いいお湯だった。丸山さんもどうぞ~。』
こっちは、あれこれ詮索しているのに、本人はいたって暢気に戻ってきたのだ。
公彦もそそくさと風呂にはいり、部屋に戻ってきたら、彼女はベットに横になっていた。
背を向けていたので表情はわからない。
時計を見ると、もう真夜中。
公彦は、仕方なく部屋の隅に丸まって寝ようとしたら、
『おやすみなさい。』と背後から声。
『おやすみなさい。名無しさん。』
名前も知らない若い女と一つ部屋で寝るなんて・・・朝には想像もしなかった。
公彦は携帯を覗くがまだ不通で、修子に連絡する事も出来ない。
修子、心配してるかな・・・と思いながら、暗闇にうとうとしてると・・
『・・・ねえ、丸山さん。今日、なんで、あなたに声かけたかわかる?』
『・・・?』
『崖っぷち歩いてるあなたが心配だから、声かけたの。』
『・・・?????』
『あなた、家族に目を向けてないと危ないわよ。』
『オイ、何なんだよ、失礼じゃないか?オレのどこが危ないんだよ!』
『・・・そんなに怒らないの、いまにわかるわ。じゃあ、おやすみ・・』
(???)
彼女は言うだけ言うと、スヤスヤと健やかな寝息。
(何なんだよ!オイ!!)
しかし疲れが意志とは反対にどっと押し寄せ、公彦もそのまま寝入ってしまった。
朝、起きてみると、彼女の姿はない。
(着替えに帰ります。お先に~)
テーブルの上には、宿泊費の半分程度の現金が置いてあった。




