表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会社を辞めた俺、ハズレスキル“清掃”でダンジョン最深部を独占する  作者: tsu
外界汚染編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/34

第三十三話 白の後に残るもの

深淵門の奥に“それ”は存在していた。


 黒でも白でもない。


 光でも闇でもない。


 存在という概念のさらに外側。


 そこには「空間」という概念すら成立していない。


 上下はない。


 左右もない。


 距離もない。


 時間もない。


 あるのはただ一つ。


 “存在しているという確定情報”だけ。


 それは視覚でも触覚でもなく。


 認識そのものに直接干渉してくる領域だった。


 そしてその中心で。


 巨大な“眼”が開いていた。


 それは見るための眼ではない。


 「見られていることを成立させる装置」だった。


『……コレガ、世界ノ外側カ』


 深淵の声が響く。


 だがその声は音ではない。


 空間そのものが“意味を持って震えた結果”だった。


 その瞬間。


 封印中枢が悲鳴を上げる。


 白銀回路が軋み、世界構造が歪む。


 カルネディア全域が一つの巨大な数式として書き換えられていく。


『最終封印進行率:97%』


『構造崩壊干渉率:92%』


「もう“あと少し”の領域じゃねえ……これは限界の先だ!!」


 九条の声は、叫びというより崩壊していた。


 計算が成立しない。


 理論が通らない。


 成功確率という概念が死んでいる。


 それでも。


 白銀術式だけは動き続けている。


 その異常さが、逆に絶望を際立たせていた。


 封印回路が走るたびに。


 世界が一枚ずつ“剥がれていく”。


 その中心で。


 ネメシスは存在そのものが崩れていた。


 白銀粒子が絶え間なく流れ落ちる。


 形がない。


 輪郭がない。


 もはや“個体”ではない。


 ただの「残響」だった。


『個体崩壊率92%』


 数値は意味を失っている。


 それは“残り時間”ではない。


 “消失の進行ログ”だった。


「ネメシス!!」


 呼びかける声すら、世界に吸い込まれていく。


 彼女は振り向く。


 しかしその動作すら遅延している。


 世界との同期が完全に崩壊していた。


 その時。


 月白が前に出た。


 白銀装甲は完全に消失している。


 残っているのは黒く侵食された骨格と神経束。


 それでも彼は剣の残骸を握っている。


 刃はもう刃ではない。


 それでも“振るう意思”だけが残っていた。


「……終わらせる」


 静かすぎる声。


 その瞬間。


 空間がわずかに震えた。


 深淵門の奥。


 黒い眼がゆっくりと動く。


『オマエハ、マタ選ブ』


 声は外からではない。


 内側からでもない。


 “世界そのものが発声している”。


『何度モ壊レル未来ヲ』


『何度モ救エナイ結果ヲ』


『何度モ繰リ返ス失敗ヲ』


「違う」


 月白が一歩踏み出す。


 その瞬間。


 重力が一瞬消える。


 空間が“息を止める”。


 しかし彼は止まらない。


「もう繰り返しじゃない」


 その声は低い。


 だが確実だった。


「これは終わらせる一回だ」


 その言葉に。


 一瞬だけ深淵門の圧力が揺らぐ。


 だが次の瞬間。


 黒は“笑った”。


『ソレハ、“生存者ノ錯覚”ダ』


 その瞬間。


 ネメシスの崩壊が一気に加速する。


『個体崩壊率95%』


 白銀粒子が爆発するように溢れ出す。


 存在が“ほどける”のではない。


 存在の定義そのものが外れていく。


「まずい……もう持たない!!」


 九条の叫びが響く。


 封印中枢の回路が軋む。


 白銀柱が一本、また一本と崩壊する。


 成功と失敗が同時に成立している。


 矛盾した現実。


 その中心で。


 ネメシスが、かすかに笑った。


『……ねえ』


 声は風より薄い。


 月白が振り向く。


 視線が交差する。


 その一瞬だけ、世界が安定する。


『……わたし、ね』


 言葉が途切れる。


 だが続く。


『……ずっと、ここにいた』


『……ずっと、待ってた』


 白銀粒子が揺れる。


 それは記憶の断片のようだった。


 消えかけているのに、確かに“意味”を持っている。


『……でも』


 静寂。


 そして。


『……もう、いい』


「何を言ってる」


 月白の声が揺れる。


 初めて“感情”が混じる。


『……だって』


 ネメシスは“世界”を見る。


 深淵門でもなく。


 その奥でもなく。


 “ここ”を見ている。


『……もう、ひとりじゃないから』


 その瞬間。


 深淵門の圧力が完全に消える。


 世界が止まる。


 音が死ぬ。


 時間が静止する。


 ただ白銀だけが残る。


 その中心で。


 月白が剣を握り直す。


「……まだ終わってない」


 その声と同時に。


 封印中枢が最終段階へ移行する。


『最終封印:進行率99%』


 世界が震える。


 深淵門が軋む。


 そして。


 “向こう側”が動いた。


 それは攻撃ではない。


 侵食でもない。


 ただ一つの“確定”。


『……終ワラセル』


 静かな声。


 その瞬間。


 世界の“反転”が完全に始まった。


 上下が消える。


 左右が消える。


 因果がほどける。


 存在の順序が崩壊する。


 そして。


 すべてが“裏返る”。


 その中心で。


 ネメシスの光が完全に消えかけた。


『……つきしろ』


 最後の声。


 それは祈りだった。


 月白は一歩踏み出す。


 残った剣を構える。


 そして。


「……ここだ」


 振るった。


 その一撃は攻撃ではない。


 破壊でもない。


 ただ“終わりを成立させるための境界線”。


 白銀が爆発する。


 深淵門が悲鳴を上げる。


 世界が裂ける。


『最終封印:100%――』


 その瞬間。


 すべてが白に飲まれた。


 そして。


 世界は完全に停止した。


 ただ一つの“終わり”として。





白だった。


 すべてが。


 音も。


 重力も。


 時間も。


 因果も。


 世界を構成していた“ルール”そのものが、一度完全にリセットされたかのように、何もかもが白に溶けていた。


 そこには「何もない」のではない。


 “何もないという状態すら成立していない”。


 そんな場所だった。


 その中心で。


 まず戻ってきたのは“感覚”だった。


 遅れて“痛み”が戻る。


 さらに遅れて“呼吸”が戻る。


 そして最後に、“記憶”が戻る。


「……ここは」


 誰の声かも曖昧だった。


 だが確かに“誰か”がそこにいた。


 白の中に、輪郭が生まれる。


 月白だった。


 だが彼は、もはや月白と呼べる存在ではなかった。


 右腕はない。


 左肩も半分消えている。


 黒侵食も白銀も、すべてが中途半端に消失している。


 それでも“存在している”という一点だけが彼を世界に繋ぎ止めていた。


 視線を動かす。


 周囲には何もない。


 だが、空間の“揺れ”だけが残っている。


 まるで巨大なものが一度そこに存在し、今消えた直後のような痕跡。


「……封印、は」


 声はかすれていた。


 その瞬間。


 白の中に“線”が走る。


 細い。


 しかし確実な線。


 それは白銀でも黒でもない。


 “境界”そのものだった。


 その線の上に。


 ゆっくりと何かが形を取り始める。


 まず“光の粒”。


 次に“人型”。


 そして最後に“声”。


『……ここ、は』


 ネメシスだった。


 だがそれは完全な存在ではない。


 輪郭は不安定で、白銀粒子が絶えず崩れては再構築されている。


 存在と非存在の間を揺れていた。


「ネメシス……!」


 月白が一歩踏み出そうとして。


 足が止まる。


 そこには“距離”がない。


 しかし確かに、届かない。


『……わたし』


 ネメシスは自分の手を見る。


 そこには手の形があるが、すぐに崩れる。


『……まだ、ある』


 その言葉は驚きでも喜びでもない。


 ただ“確認”だった。


 その瞬間。


 白の空間が微かに揺れた。


 遠くで、何かが“再起動”するような音。


 しかしそれは音ではない。


 世界の裏側で、構造が再び組み直される“気配”だった。


「終わったんじゃないのか……?」


 誰かの声。


 九条だった。


 だが彼の姿も不安定だ。


 半分は白の中に溶け、半分だけが残っている。


『最終封印結果:未確定』


 ルナの表示が揺れている。


『因果構造の再収束を検知』


「再収束……?」


 つまり。


 終わっていない。


 むしろ“終わったことすら確定していない”。


 その時。


 白の奥で“何か”が動いた。


 最初は影だった。


 次に輪郭。


 最後に“声”。


『……アァ』


 それは深淵門の声ではない。


 もっと静かで。


 もっと深い。


 まるで“世界そのものの息”だった。


『……ココマデ、カ』


 白の空間がわずかに震える。


 ネメシスの粒子が大きく揺れる。


「まだ……いるのか」


 月白が低く呟く。


 その瞬間。


 白が裂けた。


 そこから“境界の向こう側”が覗く。


 それは深淵門のさらに先。


 世界という概念すら通り過ぎた領域。


 そこに“目”があった。


 しかしそれは一つではない。


 無数。


 無限。


 観測そのものが集合したような存在。


『……観測完了体』


 その声が響いた瞬間。


 ネメシスの存在が大きく揺れる。


『個体安定率:43%』


「戻ってきてない……!」


 九条が叫ぶ。


 まだ終わっていない。


 封印は“結果”として確定していない。


 世界は今も“途中”にある。


 その時。


 月白がゆっくりと剣を拾おうとする。


 だが。


 剣はない。


 折れたのではない。


 “存在しない”。


「……そうか」


 彼は静かに理解する。


 この場所では、武器も術式も意味を持たない。


 残っているのはただ一つ。


 “選択”だけ。


 その時。


 ネメシスが一歩だけ近づく。


 しかし距離は変わらない。


『……ねえ』


 声はまだ揺れている。


『……わたし、まだ、ここにいる?』


 問いだった。


 それは誰かへのではなく。


 世界そのものへの問いだった。


 月白は答えない。


 代わりに一歩踏み出す。


 そして。


 手を伸ばす。


 そこには触れるものはない。


 だが。


 確かに“何か”がそこにあった。


「……いる」


 短い言葉。


 その瞬間。


 白が震えた。


 境界がひび割れる。


 観測体がわずかに揺れる。


『……不確定因子』


 声が初めて“乱れる”。


 その時だった。


 白の世界に“色”が戻り始める。


 ほんのわずか。


 しかし確実に。


 白銀が。


 黒が。


 そして“境界の揺らぎ”が。


 再び世界に形を与え始める。


 ネメシスが小さく呟く。


『……まだ、終わってないんだ』


 月白は答えない。


 ただ、もう一度だけ前を見た。


 その先には。


 まだ“終わりきっていない世界”があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ