公の場に出るなと言われたので、王家への支援を止めました
「お前、もう公の場に出てくるなよ」
謁見の間で、王子レオンはうんざりした顔をした。
「堅苦しくて、雰囲気悪くなるんだよね。次からは白蓮華が出るから。お前はもういい」
私は一度だけ瞬いた。
「……は?」
「聞こえなかった? 追放。そういうこと」
王子の隣で、白蓮華が控えめに微笑む。
なるほど。そういうことか。
「そうですか」
自分でも驚くほど、声は静かだった。
「では、私の実家から王家へ回していた金も止めますね」
今度は王子が固まる番だった。
「……は?」
「軍資金と、王都向けの穀物と、融資の保証です。私との婚約が前提でしたので」
「待てよ」
「待ちません」
「そんなの困るだろ!」
「でしょうね」
私は礼をした。
「ですが、不要な女が気にすることではありませんので」
そのまま踵を返した。
背中に王子の声が飛んできたが、振り返らなかった。
◇
王都で暴動が起きたのは、それから間もなくだった。
公爵邸の門前で、王子は泥だらけのまま膝をついていた。
「戻ってきてくれ!」
私は石段の上から彼を見下ろした。
「嫌です」
「国庫が空だ! 兵も民も抑えきれない!」
「知りません」
「お前がいれば何とかなるだろ!」
「何とかしていたのは、ずっと私です」
王子は土に手をついたまま顔を上げた。
「悪かった! 俺が悪かった! 今度こそ改心する!」
「何度目?」
「……」
「白蓮華と浮気した時も、そう言いましたね。もうしない。私と添い遂げるって」
王子は黙った。
「嘘でしたけど」
「今度こそ本当だ!」
「その言葉、前も聞きました」
王子は縋るような目を向けてくる。
昔の私なら、ここで折れていたかもしれない。
でも、もう知っている。
この人は、私の情に甘える時だけ素直になる。
「頼むよ……」
「無理です」
「セレスティア!」
「次に無断でここへ来たら、衛兵を呼びます」
王子の顔が引きつった。
「そこまでするのか」
「ここまでされたのは私のほうです」
風が吹いて、王子の外套の泥が乾いた音を立てた。
「俺たち、婚約者だっただろ」
「ええ」
「だったら――」
「だから何度も許したんです」
王子の口が止まる。
「でも、それも終わりました」
私は扉に手をかけた。
「待ってくれ!」
「もう遅いです」
扉を閉める。
重い音がして、ようやく静かになった。
胸は少し痛んだ。
けれど、それだけだった。
私はもう、あの人を支えなくていい。
それだけで十分だった。




