11番の檻
ここはどこだろう。
目が覚めると真っ白な空間にいた。
寝ていた体を起こす。
ベッドもないなか寝ていたようだが、体はそれほど痛くない。
それにしても、どれくらい寝ていたのだろう。
部屋を見回すとおかしいことに気づく。
照明器具はない。窓もない。
でも部屋は明るい。
なぜなんだろう。
おかしいことはもう1つ。
「貴方は知っているの?」
さっきから顔の横でヒラヒラと赤い蝶が舞っていた。
赤い、というより、まるで炎を纏っているようだ。
こんな蝶は見たことがない。
蝶は手に留まったかと思えば、すぐに飛び始めた。
ヒラヒラと、ゆっくり。
しばらく見ていると赤い蝶は、ある一点で留まり、こっちを見ている。
まるで「早く来い」と言わんばかりだ。
そこへ行くと、真っ白なドアノブがあった。
手で掴むと、開いた。
これで外に出られる。
幸い、服は着ているからもし誰かに会っても困ることはないと思う。多分。
でも、なぜここにいたんだろう。
外に出ると、左右に扉が続いていた。
ここは一番奥で、正面に部屋があるのでとりあえず見てみようとドアノブを回した。
開いた。
それから、いくつか扉を開けて回った。
本がたくさんある部屋、お嬢様みたいな部屋、何もない部屋・・・。
みんな違ったけれど、共通していたのはベッドがあったことくらいか。
いいな、あそこにはなかったのに。
全ての部屋を回った後、廊下に出ると下へ続く階段があった。
降りるか、否か迷っていると、またも赤い蝶が誘導するような仕草を見せる。
蝶は下にいるのに、まるで見下ろされているようで少しムッとする。
でも、下に降りてみた。
手前にあった部屋には、三角フラスコ、試験管、調合器具みたいなのがいくつか並んでいる。
実験室だろうか。
理科の教科書に載っているような、そんな感じ。
少し奥にある部屋は大きなガラスで仕切られていた。
ガラスの奥は結構広い、けれど何もない空間が広がっていた。
ここは、何をする部屋なんだろう。
廊下の先を歩くと、また下へ続く階段があった。
今度も、下へ降ろうか迷う。
それなのに。蝶はまた急かすかのような動きをする。
さっきから鬱陶しい。
少し考えたいのに。
歩いてばかりで休みたいのに。
「そんな時間はない」と言いたいかのように急かしてくる。
でも、赤い蝶はしゃべっていない。
急かされていると勝手に感じているだけ。
この広い空間に一人ぼっちでいる今、頼りなのはあの蝶だけだ。
不安も大してなく進められているのは蝶のお陰でもあるのに、どうしてこんなに
嫌悪しているんだろう。
そんなことを考えながら結局、下に降った。
今度は「Muniment roomⅠ」と書かれた部屋に入る。
たくさんのバインダーがびっしりと棚に詰まっている。
これは1つ1つ開いて確認した方がいいのだろうか。
そんな時間はあるのだろうか。
というより、今何時なんだろう。
部屋の壁を見渡しても時計はない。
ここへ来るまでも見た覚えはない。
時間は、さして重要ではないのかもしれない。
棚から棚を眺める。
3段構成からなる棚の一番上は、なんとかギリギリ取れる高さだ。
バインダーを“取って開いて、パラパラと捲り、閉じて戻す”を繰り返していた。
・・・困ったことに、文字が読めないらしい。
文字がびっしりと書かれたページが多く、それが解ればここから出られるための情報になったかもしれないけれど、わからないのでは意味がない。
勉強しておくべきだった。
ため息もほどほどに、部屋の中を歩きまわる。
先ほどまでただ顔の横でヒラヒラと舞っていた赤い蝶が、ある一冊のバインダーの前に
止まっていた。
“読め”ということだろうか。
「読めってことなの?」
蝶は何も言わないが、バインダーを手に取ると満足げに少し離れていった。
文字は読めないが、今までのものと違って写真もついていた。
・・・あまりいい写真ではない。
戦車、銃、血、人・・・。
怖くなって、閉じた。
あの蝶は悪趣味だ。
文字が読めないからといって、こんなものを見せようとするなんて。
文句を言わずにはいられない。
「貴方は何がしたいの?こんなものを見せて満足なの?」
蝶は聞こえないふりなのか、逃げるように扉に向かってヒラヒラ飛んでいく。
バインダーを棚に戻し、追いかける。
蝶は、今度は「Muniment roomⅡ」と書かれた部屋に入っていった。
入りたくない。
何を見させられるのか、考えただけで不愉快だ。
いや、そもそもあの蝶の指示に従わなければいいのだ。
・・・でも、それではいけないとどこかでわかっている自分がいた。
部屋の中には、またびっしりとバインダーが並んでいた。
無駄な時間はいらない。
「どれを読めばいいの?」
蝶はまた1冊のバインダーに留まる。
これで確定した。
あの蝶はこちらの言葉を理解できている。
やはり、普通の蝶ではないらしい。
バインダーは棚の3段目にあって少し取りにくい。
指示を出すなら、取ってくれてもいいのに。
蝶を睨みつけながら、そのバインダーを開く。
これも、写真が多い。
ペラペラと捲る。
戦っている様子だろうか。
何人かの少年少女が短剣や銃を持って、大人と戦っているようだ。
よく見ると、先ほどの、何もなかった部屋と似ている。
じゃあ、あそこは訓練をする場所?
まただ。
考えている途中だというのに蝶はまたヒラヒラと部屋の外へ飛んでいく。
着いていくと「Muniment room Ⅲ」と書かれた部屋に入った。
蝶は何も言わなくても1冊のバインダーに留まっていた。
癪ではあるが、手に取る。
今度はどんな不愉快なものを見せられるのか。
少しの緊張と心配を胸にバインダーを開く。
1ページに出てきたのは少女だった。
蝶を見る。
しかし、蝶は知らん顔するかのように別の方向を見ていた。
心臓が嫌な鼓動を立てるのを感じながらページをめくった。
文字ばかりのページ。
文字ばかりのページ。
文字ばかりのページ。
5ページほど捲ると、1枚の写真が貼ってあった。
それを見て、衝動的に手を離した。
とても恐ろしい写真だったから。
血まみれの男性。
それを無表情で見つめる少女。
少女の手は赤く染まっていた。
これは
「ねえ、いつまでそうしているつもり?」
自分ではない声が耳元で響く。
悲鳴になり損ねた声を出しながら見ると、あの蝶が。
不愉快で、憎たらしくて、大嫌いな、赤い蝶が、ヒラヒラ舞っている。
「貴方はなんなの!?なんでこんなことをするの!?」
怒鳴った。腹の底から声を出した。
一番近くにあったバインダーを手に取って蝶に投げつける。
しかし、それは当たらない。
「君って本当に都合がいいよね。」
その声は私を嘲笑うかのようで。
私のことを見透かしているようで。
嫌い、嫌い、嫌い。
「僕は君のことを知っているし、君だって。」
「うるさい!」
コイツの言葉を聞いて理解する。
私は逃げたくてここへ来たのだと。
気づけば自分の目から涙が流れていた。
「君だって、僕のことを知っているはずだよ?」
そうだ。
これは私の




