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悪役令嬢と死の貴族  作者: 峰雲緑氷
老将軍バルトラ・アルストリアと孫娘イザベラ
20/23

第二十話

 リリシアの求婚に、あの飄々としていたアルベルトが明らかに動揺していた。



「リ、リリ、リリシア様……今なんと」



 聞こえなかったの? いや、でも明らかに動揺しているよね。

 絶対に聞こえていたと思うが、信じられないからだろうか、せっかくの求婚をアルベルトが聞き返すものだから、リリシアはもう一度大きな声で、


「だぁーかぁーらぁー、私と結婚してください!」


 アルベルトの手を握ったまま、しっかりと結婚を申し込んだ。


「どどどど、どう、なななぜ」


 えっ、なんか照れてる?


 二度目の求婚に、アルベルトの目が泳ぎ、少しだけ頬が赤くなっているように感じられた。


 あーあ、それはずるいよ。かっこいいだけじゃなくてかわいいも備えてるなんて。どうせ殺されるし、ダメもとだったけど、そんな反応見せられたら諦められないじゃん! 絶対まだ死ねないじゃん!


 アルベルトの反応は一層、気持ちを大きくさせた。

 恥ずかしいからか、リリシアの握った手から離れようとしていたが、絶対に放すものかと、力いっぱい握りしめた。

 その状態のまま、これはアルベルト様が悪いよね、といった感じにリリシアは攻め続けた。

「私、アルベルト様にあの夜会の日、一目惚れしたんです。だから結婚してください」

「だ、だからなぜ」

「だぁーかぁーらぁー、一目惚れですよ、一目惚れ。私はアルベルト様に一目惚れしたんです! 一目惚れに理由なんてないでしょ!」

「いやいやいやいやいや」


 照れてる、照れてる。かわいぃぃいー。

 顔を背けながら動揺しているアルベルト。そんな姿を見せれたら、もっともっとからかいたくなる。

 しかし、目の前のアルベルトは急に何か落ち着きを取り戻したようだった。背けていた顔をこちらに向け、これまでのアルベルトと同じように感情の読み取れない表情に戻っている。


「リリシア様。悪あがきはおやめください。私と結婚すれば処刑を免れるとお思いでしょうがそうはいきません。私に一目惚れなど。私は処刑人ですよ。私と結婚したいと心から思う者などいるはずがありません。しかも貴方は貴族の出身。そんな身でありながら私に恋など」


 なるほどね。そうだよね。そりゃそうだ。だって私はもうすぐ処刑される罪人だし、アルベルト様はその処刑を担当する処刑執行人だし。そうアルベルト様に思われてもしょうがないよね。でも無理。このままアルベルト様とどうにもなれなくて死ぬなんて絶対、嫌! それにこれはアルベルト様が悪いんだから。私をここまで虜にしたアルベルト様が! しっかりとその責任は取ってもらうわ!


 リリシアの加速した気持ちはもう、自身にもどうすることはできない。絶対にこの恋を実らせる。アルベルトのことを諦めるなんてもう無理な話だった。


「悪あがきなんかじゃありません! 私は本当に貴方に一目惚れしたんです! 一目惚れに、処刑人も貴族も関係ないじゃありませんか! 恋にそんなこと些細な問題ではありません!」

「些細な問題ではありません。大いに関係あります」

 アルベルトはさっきの照れた表情を見せてくれなかった。アルベルトからは頑なな意思を感じたが、それはリリシアも同じ。リリシアは何と言われようが、折れる気はしなかった。

「ありません」

「あります!」

「ありません!」

「あります‼」

「ありません‼」

「あります‼‼」

「ありません‼‼」


 …………………………

 ……………………………………………………

 ………………………………………………………………………………


 アルベルトとの応酬が続いたが、正直リリシアはこのやり取りを楽しんでいた。


 だって好きなのだから、アルベルトのことが。好きな人と間近で顔を合わせながら言い合っているこの状況が嬉しく、ずっと続けていたいとさえ思った。


 しかし、アルベルトはそうでもないようで、一歩も引かないリリシアにこのままじゃ埒が明かないと思ったのか、ため息を一つつき、握った手がを無理やり振りほどこうとしてきた。今までで一番、強い力で。


 やばい、ここでアルベルト様と別れてしまったら、もう処刑の日まで会えないかもしれない。どうにかしなきゃ。


「あっ! ちょ、ちょっと! ま、待って! ダメです!」


 リリシアの体を突き動かしたのは、アルベルトが離れてしまうという危機感、焦りだった。

 二人の間に置かれた机。

 リリシアは、その机を踏み台にし、離れようとするアルベルトに勢いよく()()をした。


 リリシアにとって初めてのキス。

 アルベルトの柔らかな唇の感触、熱、匂いが直に伝わってくる。

 

 これまでで一番近づいたアルベルトの目は、大きく見開き、驚きが映っていた。まだ状況が理解できていないようだった。

 リリシアは、その黒く美しい瞳から自分の視線を離さなかった。


 アルベルト様、アルベルト様、アルベルト様……。


 好きな人ととの初めてのキスに、アルベルトのことで体が埋め尽くされ、頭が少しクラクラした。

 リリシア自身も、内心穏やかではなかったが、瞳を見ていたら、アルバインの視線が一瞬で消えた。


 えっ? あぁぁああああぁあああ。


 何が起こったかわからず視線を落とすと、アルベルトがその場に倒れ込んでいた。




「アルベルト様! アルベルト様! アルベルト様!……」




 倒れたアルベルトを抱え込み、懸命に名前を呼ぶが、腕の中でアルベルトの体がだんだん重くなっていく。 





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