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再始動

 

「信じられない……」


 わたしと丸岡と鹿久田は同じ言葉を同時に発した。夏島家を辞して駅へ向かう道すがら、夏島と秋村から聞いた言葉を現実のものとして受け止められないでいた。夏島が校長で秋村が教頭なんてあり得ないのだ。

 しかし、間違いのない事実だった。夢みたいな本当だった。わたしはさっき聞いた夏島の言葉をもう一度蘇らせた。


「秋村さんから中学教育の重要性を説かれた時、そして、秋村さんが教頭で支えると言ってくれた時、俺の最後のご奉公はこれしかないと悟った。スポーツ界だけでなく、教育界に、そして、ひいては日本という国に恩返しができる、そんな気持ちが湧いてきた。明日を担う若い人たちの個性を伸ばすと共に、心身共に健康な人格を形成するための一助になりたいと」


 その時、強く頷いた秋村の言葉も蘇ってきた。


「未知の領域への挑戦をさせていただくわ。心が決まったら、中学教育を根本から変える新しい取り組みができることにワクワクしてきたの。夏島さんと2人で必ずやって見せる、そんな気持ちでいっぱいなの」


        *


「あとは、アスリート教師だな」


 丸岡の声で、わたしは現実に戻った。

 すると、〈好機逸すべからず!〉という言葉が浮かんできた。早速行動を開始しなければならない。3人で手分けをしてアスリート教師を探すのだ。


 駅前の喫茶店で話し合った結果、それぞれが母校出身者と会って、可能性のある人をしらみつぶしに当たっていくことにした。

 わたしは都立教育大学卒で、かつ、プロ経験がある人や実業団チームで活躍している人たちを選び抜いてコンタクトを取った。

 丸岡と鹿久田は都立体育大学卒で、かつ、教員資格を持つアスリートを口説くために休日をすべて潰して全国を走り回った。


 日を追うごとに手応えを感じてきた。

 多くの人から前向きな返事を貰ったからだ。スポーツ専門中学校が実現したら必ず参加すると。

 もちろん慎重だった人もいる。しかし、ある言葉を聞いた瞬間から態度が変わった。それは〈夏島が校長に就任予定〉という言葉だった。夏島はラグビー界を超えてスポーツ界全体から尊敬を集めていた。

 更に、スポーツに情熱を燃やす人にとって魔法の言葉である〈未知の領域への挑戦〉という誘惑も彼らの心を鷲掴みにしたようだった。


        *


 目途が立ったところでわたしは桜田に会い、夏島と秋村から快諾をもらったこと、スポーツマン・スポーツウーマン教師へのアプローチが順調に進んでいることを伝えた。


 そのあとの桜田の行動は早かった。教育特区本申請案をまとめるや否や市議会に提出したのだ。

 支持母体を持たない桜田は多くの反対意見が出されることを覚悟して臨んだが、あの夏島熱男が校長就任にOKを出したこと、更に、地元の英雄であり、世界や日本で活躍している建十字と横河原と奈々芽が協力してくれることを報告すると、反対どころか驚嘆の声が上がるだけでなく、拍手まで湧き起こり、ほとんど質疑もなく議員全員賛成で議案は承認されたという。

 そのことを後日聞いたわたしは思わず飛び上がって、大きな声を発してしまった。



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