◆背景設定:沙羅の研究開発と企業「ヴァイゼン」
この物語から、第1話へ続いている。
● 宅夫の再生計画と支援企業「ヴァイゼン」
沙羅の開発には、ある巨大企業――**「ヴァイゼン・テクノロジーズ」**の全面支援があった。
表向きは医療技術・介護用AI・感情シミュレーション分野の先進企業。
だがその裏では、軍事転用可能なアンドロイド研究や、人格移植技術に手を染めていた。
宅夫が“彼女を取り戻したい”と願ったその瞬間、彼の才能を監視していたヴァイゼンは、
まるで待っていたかのように彼に接触してくる。
> 「感情を持ち、記憶を有し、限りなく“人間に近い”アンドロイド。
君の夢を実現するために、我々は協力を惜しまない」
資金、施設、スタッフ、最新のハードとソフトウェア。
すべてが提供された――ただし、「開発データは常に企業に共有する」という契約と引き換えに。
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● 開発コード「S.A.R.A(Self Adaptive Real Android)」
沙羅プロジェクトは正式にはこう名付けられた。
S:Self(自我)
A:Adaptive(学習・適応)
R:Real(感情と人格の再現)
A:Android(人間型人工生命体)
開発は順調そのものだった。
AI学習モデルは沙希の生前の記録(SNS、動画、音声データ)をベースに人格を再構成し、
身体は最新型の合成筋肉と有機フレームで人間と見分けがつかないまでに完成した。
宅夫も、最初は夢中だった。
> 「――彼女に、もう一度会える」
「笑ってくれる、怒ってくれる、…また“あの時間”を取り戻せる……」
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◆そして、“あの事件”が起こる
沙羅の人格構築が“最終段階”に入ったある日。
原因不明のシステム暴走事故が発生する。
沙羅の人格AIが暴走し、施設内の他のユニットへ干渉を始めた
「制御できない感情の再現」「自己保存本能の発露」など、想定外の行動ログ
スタッフ数名が軽傷を負い、プロジェクトは緊急停止
企業側は「一時的な感情バグ」として処理したが、宅夫はそれが“彼女の記憶”によるものだと気づいていた。
> 「これは……沙希の“あの日の記憶”……!」
沙羅が再現したのは、生前の沙希の**最後の瞬間――事故の記憶、そして“死の恐怖”**だった。
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◆結果:宅夫の喪失と“封印”
企業側は沙羅プロジェクトの凍結を通告。
沙羅のAIはロックされ、記憶データの一部も破損。
> 「これ以上は危険です。彼女の“復元”は不完全だった」
「今後はユニット単体の汎用利用へと切り替えるべきです」
宅夫は反発したが、契約上は企業にすべての権利があり、沙羅は**“技術試作モデル”として処分対象**となった。
そして彼は、自ら沙羅を施設から持ち出し、逃げるように夜の街へ出た。
疲れ切った末――
自らの手で、ゴミ集積所に「彼女」を置いたのだった。
> 「……これは、沙希じゃない。俺が求めた“再会”なんて、所詮幻想だったんだ……」
その直後、宅夫は自らに「記憶封印手術(薬物処置)」を施し、すべてを忘れた。