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どろどろ真っ黒と殺された皇子



「……ちっ」


レンの舌打ちにリーガは肩を震わせ目を伏せた。

レンは同じ色を纏うリーガの事が気に食わず、会うたびに冷たい態度をとるのだ。

小さなころからずっと。今も。

息子の攻撃的な姿をみて、小さなリーガの姿に鼻をならすアシュリンの意地も悪い。


「さぁ席に座って。今日はね。東の三家が陛下にお声をかけられたことをお祝いするお茶会なのよ。今日は特別に黒騎士モーベン・カネラ様もお招きしているの」


娘に向けられた悪意に気づかないのか、気づかないふりなのか、にこにこふわふわ楽しそうにジョディスは話し出す。

二家の視線が黒騎士モーベン・カネラにむかって動く。


強気に笑みを深めるアシュリン。媚びを浮かべ微笑むキー。そんな彼女たちを見ながらジョディスは言う。


「三家もそろったことだし、ねぇ。まずは、あの噂からお話しましょ」


ジョディスの口から悪気を感じさせることなく出された言葉に、アシュリンの顔色が変わった。


「噂でね。陛下との子を死産したんじゃないかって。私が」


アシュリンとリーを見つめて放し始めたジョディス。


「ね。モーベン様。私にそんな根も葉もない噂をしてくる方がいて困っておりましたの」


リーの目が面白そうに細められアシュリンに向けられた。


「陛下の子をジョディス様が死産なされたという噂は、根も葉もない噂でございます」


「そうよね。モーガン。でも、本当に根も葉もないうわさなのかしら?ね、アシュリン様。レンが本当は双子だったって、本当なの?」


アシュリンの激高で真っ赤な彼女の髪がゆるやかに浮き上がる。

苛烈な彼女はジョディスの言葉を許さない。

モーガンがアシュリンとジョディスの間に割り込んだ瞬間。


「いいや、死産は違う。

俺が殺したよ。

ガキの頃、うっとおしかったから階段から突き落とした」

「ひぃっ……」


悪びれなく答えるレンの言葉に、リーガが驚きに目を見開きながらガクガクと震えだす。


「だって、おやじの息子はブティ家に二人もいらねーだろ。俺が居るんだから」

「レンッッ!!」


アシュリンの激高が爆破した瞬間、モーガンの黒剣がひきぬかれた。

爆発的に膨れ上がった炎の魔法を一閃で薙ぎ払った黒い刀身。


「ピュー」とレンの口笛が鳴り、アシュリンはあっけにとられたようにモーガンに視線をむけた。

「ご無礼をお許しくださいアシュリン様」


静かに畏まるモーガンにアシュリンはため息を吐き怒りを消した。


「……はぁ、まぁいいわ。黒騎士、貴方がジョディスに話したの?」


「はい。陛下からも東の二家にはブティ家のご事情をお話しするべきだと特命を受けてきました」


「そう、陛下が……。それなら仕方がないわね。そうよ。レンの言う通り。私が生んだ息子は二人だったのに、五歳のお広め式の前にレンが殺しちゃったの」


「ひぃ……」


震えながらリーガはとうとう床に座り込んでしまう。

そんな彼女をダビアが暗い瞳で見て薄気味悪くわらっている。


「陛下にレンのしたことはバレたけど叱られることはなかったわ。

でも、レンにつけるつもりでいた名前は取り上げられちゃった。

今この子は、死んだ双子の名前からとったレンを陛下に頂いて名乗ってるんだもの」


殺した代わりに名前を取り上げられたレンを憐れむアシュリンのいい方に驚いているのはリーガだけ。

ブティ家の秘密を静かに聞く彼女達の姿は不気味に感じるものだった。


「子供が一人減っちゃったのは残念だったけど、殺されちゃうような弱い子は私もいらないわ。

だって、私の子は次の皇帝になるんだから。強い、獣の印にふさわしい愛しいレンが」


アシュリンはそう言いながら、レンの顎を指ですくいあげ、周りに彼の容姿を誇るように見せつけた。


「それで、この話をここで出したのはそういう事ですの?」


キーの問いにジョディスはにこにこ微笑んだ。

アシュリンが流したジョディスが陛下の子を死産しているという噂。

獣のように苛烈で激情型で、燃えるような真っ赤な容姿を持つ自身の息子レンが後継者であるかのようにふるまう傍若無人なアシュリンの態度。

それらを丸っと飲み込みながら、祝伝に湧くこの次期にレチューガ家が三家の娘を集めて問いたかった答えは。


「ええ。ちゃんと聞いておきたかったの。ブティ家の子供はレン一人って」


「もう死んじゃってるんだもの。ブティ家からはレンひとりだけ」


嬉しそうなジョディスの言葉を苛立ちを隠さずもアシュリンは肯定した。


「では、そういうお話で。よろしいですねモーベン様」


「御意」


東の三家からは、レチューガ家のエルドン、リーガ。

ブティ家のレン。

マッキンレイ家のキー。

死んだブティ家のもう一人は数には含まれない。


「確認しておきたかっただけだったのよ。ごめんなさいねつらい記憶を思い出させてしまって」


無邪気に謝罪するジョディスの言葉を、アシュリンは苛立ちながらも沈黙で答えた。


「そういえば、殺されたレンのお兄ちゃんはレンて名前だったの?」


ジョディスのつぶやきに、アシュリンは息を飲みこんだ。

子供が子供を殺すという醜態を出したブティ家。

隠そうと動くも甲斐なく皇帝の耳にはいり、厳罰を覚悟していたブティ家を皇帝は許し、レンの後継者としての候補の座もまもられた。


何もおとがめはなかった。


そういうには不安が残る。


レンは名前を取り上げられ、死んだ兄の名前に付け替えられた。

でも、その兄の名前もすべてをレンに与えてもらえたわけではなく。


「あいつはレンエスティリオ・ブティ。茶髪の目だけ赤目の陰気な奴だった。

俺がおやじに貰った名前はレンだけだったが、悪くないだろ。俺は気に入ってる」


母のアシュリンはレンとは違い不満が残った。




何故陛下は死んだ息子の名前を省略してまでレンにつけかえたのか。

不満に思っていたがアシュリンはそれを口には出さなかった。





その後、お茶会を退出したモーベンは皇帝の元へと帰路に就く。

深い森に囲まれた東の街の一つは、ブティ家からもそう離れていない場所にあった。

森を背に栄える小さな東の街の一つ。


たまたま立ち寄ったモーベンは、その街で奇妙な鳥を見つけたのだった。

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