廃教会に出来た新しい寝具
運び込まれる寝具に廃教会の中はお祭り騒ぎになっていた。
「すっげぇ!!やべぇ!めっちゃいいやつじゃんか」
「わぁ素敵!私こんな寝具に寝てみたいってずっと憧れてたのよ」
「寝具なんて足りてねぇから落ち葉に麻布敷いて寝てたもんなぁ」
「俺干草に獣の皮だった」
「三台しかないんだ。お前はまだ干グサに獣の皮でいいんじゃね?」
「よかねぇよ!お前が落ち葉に麻布でまだいいだろ」
「俺、ちょっと寝てみていいか?!」
「私も寝かせて!」
「ずりい!俺も!」
二段ベッドが三台入っただけで広く感じなくなった廃教会の大広間で、ティオの購入した寝具は大歓迎をうけていた。
目新しく柔らかそうな寝具に子供達は釘付けになり、配達した冒険者等は古巣の賑わいに口を緩めて和やかな雰囲気。
しかし。
「うっはー。やっぱせっめぇなぁ」
ロッツォの呟きはティオも感じていた事。
かつて礼拝に使われていただろう大広間は、しっかりした作りの新顔の寝具に場所をとられ、光も通りづらく薄暗い室内になってしまっている。
もともと天井が高く外の灯りが室内を照らす役割を果たしていたから、その部屋に二段ベッドが三台入るともうその一角は明かりが遮られた暗い空間になってしまう。
蝋燭や油で広間を照らすのは難しいから、この広間では昼は太陽、夜は月が照明代わりになっていたことが死角が増えた事で裏目にでた様だった。
対策としては、新規に導入した寝具の側に照明を置く事。
家具が少ない時には気にならなかった照明具の少なさが、家具が増えた事で心配事となってしまったことは予想外。
それに、今まで雑魚寝だった分、寝具に使用していた布や落ち葉を取り払えば丸々空間を別利用できていたのに。
固定の家具として導入した寝具ではそれも叶わない。
もともとオーバー人員気味の廃教会の空間を更に狭める事になってしまったような気までしてきてしまう。
実際に家具を導入するまで想定の段階では予想が足りていなかったのだ。
「ろっちょ。やまだった?」ロッツォ。邪魔だった?
ロッツォの呟きに反応して問いかけるタイミングになってしまった僕の疑問に、ロッツォは片手でグシャッと僕の頭を混ぜながらニカッと笑う。
「うんにゃ。ありがとな!
お前からの寄付は有り難く使わせて貰うわ。
でまあ、後はどう使うかって事。
お前の善意、無駄にはぜってぇしてやらねぇから覚悟しとけ」
覚悟しとけとは穏やかでは無い。
言葉の言い回しに「ふふっ」と笑ってしまった僕にロッツォはご機嫌な顔になり、廃教会の子供達に向けて大きな声で叫ぶ。
「お前等もティオにお礼いっとけよ」
叫んだと同時。
ティオの小さな身体はロッツォの手で担ぎあげられ。
「んえ?」と驚いてる間にぐいっと高い位置のまま平行に移動してしまう。
疑問でいっぱいのまま脇の間から下を覗きみれば、廃教会に住む子供達と、廃教会出身の寝具を運んだ冒険者達がティオの小さな身体を手を伸ばし掲げて動かしあっている。
「ひゃう」
時々人の少ない空間で、ヒュッと落下を感じる場所があり思わず悲鳴をあげてしまうが。
落ちる前に空かさず別の手が伸び、ティオの小さな身体は支えられて持ち上げられて流れていく。
ティオを支える彼等は何やら歌を歌っている。
何度か耳にしたことのある歌だけれど、廃教会を寝床に選んでいない僕にとってはあまり馴染みのない歌で。
まだメロディも歌詞も覚えていない。
どうやらこの歌は廃教会に受け継がれている歌のようで、昔のメンバーも今のメンバーも境なく彼等は楽しく歌えている。
ティオを担ぎ上げたまま。
♫
よう、よう、俺たち街の外れもの。
俺たち家なし。家族なし。
だけど見つけたこの場所で。
俺たち家族になっていく。
♫
「小さな英雄の誕生だな」
ティオが再びロッツォの腕までもどった時、彼は僕にそう言った。
英雄?
寝具を三台買ったら、廃教会では英雄?
随分リーズナブルな英雄だなぁと思いながらも、嬉しそうに寝具を喜んでくれる彼等からの好意が嬉しくて。
僕は歓迎を有り難く受け止める事に決めて一緒になって「きゃっきゃっ」とはしゃぐ。
見た目の年相応ではあるけれど、そんな僕が物珍しかった廃教会のメンバーは驚きながらもはっちゃけた僕を受け入れ疲れる程騒いで楽しんだ。
そんな時に廃教会に駆け込んできたのは顔色の悪いウィガロで。
「おい!ここにジノきてねぇか?!」
血相を変えて目を血走らせるウィガロは、ロッツォから「ジノの兄貴ならギルドだろ」と、言葉を返され大袈裟に落胆し。
「居ないか……。アイツ、多分衛兵の詰め所からガキ連れて逃げてんの。
このままだとお尋ね者にされちまう」
やりきれない様に顔を歪ませるウィガロの言葉に廃教会は静まり返った。




