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鳥の景色

僕は動物を手懐ける事から始めてみようと思った。

逃げ出されない危険のない存在だと認識してもらい、僕にぬくもりを与えてくれるような。


そう、まずは野兎なんかいいかもしれない。


ウサギに目標を定めた僕は意識して視界に小さな存在を探していく。

ふわふわで、かわいらしい体毛に包まれた、暖かい小さなウサギ。

どこかな、どこかな、出ておいで。


静まり返った森の中、研ぎ澄まされたハンターのような僕の目が一つの動きも見逃すことのないほどの集中力で探り出す。

居ない。存在を認識してから意識すれば、僕から遠く離れた場所には動物の気配が確かに感じられるのに。

僕のそばには、やっぱり居ない。


柔肌の赤子からにじみ出ているらしい、本能からの強者への恐怖感でウサギどころか動物一匹傍に居ない。つらい。


怖いから近づけない。

それなら距離をとるのが動物。

だけど、僕の見つけたいウサギには捕食者から常に逃げなければいけないか弱い生き物で。


その逃げ場は、土の中とか。


にやりと笑う幼児の顔。

僕は穴に隠れたウサギに狙いを絞ることに決めた。


穴、穴、ウサギが通れるくらいの小さな穴。


見つけた。


僕は手近に落ちていた枝から小枝をちぎり捨てると、穴を掘るために突き刺した。

幼児らしくない力強さでガツガツ掘り進めた先には。


居たぁ!


喜色満面になった僕とウサギが対面したその瞬間。

ウサギは……死んだように失神し動きを止めた。


これは、死んだふり……


僕の心の傷穴がザクザク掘られていく痛みを感じた。








気を失ったウサギはそのまま冷たくなっていた。

僕は悲しい気持ちになりながらも、生きていくための僕のごはんとしてウサギの身体を貰うことを決めた。


さばき方はなんとなく分かっている。

これも前世の記憶なのかもしれない。


小川までいき綺麗に裁いたウサギは、串にささり僕のおててから出てくる火にあぶられている。

ジューと食欲をそそられる香りを感じながら、僕はこの身体になって肉を食べるのは二度目だとぼんやり考えた。

一度目の肉は、僕を襲い狼に殺された熊の肉。

肉を食べたのは後にも先にもない、その一度きり。

僕の今までの食事は、狼のお乳に始まって、木の実やさんさい、それに魚。

肉を食べることが無かったのは、僕みたいに避けられていた狼も動物と出会えなかったのかもしれない。


「いちゃーきまちゅ」


「いただきます」を告げた僕は、ちいさくおててを合わせて命をいただく。

生きていくための血となって肉となって糧となる命の味をかみしめた。










翌日も僕はウサギを探し森を歩く。

無理やり掘り出したウサギは絶命させてしまったから。表に出ている子から触っていきたい。

食料の為に探しているのではなくて、僕はぬくもりを求めていた。


そう思うのに、やっぱり居ない。


僕は森の大地に寝転がり、仰向けに空を眺めた。

遠くの空には鳥が飛び、鳥は優雅に仲間と翼を動かしている。

バッサバッサと動く羽の羽ばたき。


僕は目をとじ鳥になった気持ちになって想像してみた。

バッサバッサと動かす両翼の羽。

空を縦横無尽に飛び、森を見渡しながら空を飛んでいる。

鳥なら、僕が焦がれる人里も空から観察できるかもしれない。


そう思うと、意識は森から平原へ。そして人里に向かい。

そこに広がる光景は、僕が予想もしていなかった知らない衣装と知らない街並みの知らない場所。


「んえ!?」


とんでもないものが見えた気がして、僕は勢いよく目をひらいた。

そうしてみれば、そこは変わらない森の中のままで。

人間の僕は、小さな幼児のまま。

おてても変わらずちいさく愛らしい。


何か変わった感覚に触れた気がして、僕は今度は座り込み、瞳を閉じた。

想像するのは、先ほどの街並みに見えた、街路樹に止まる一匹の小鳥で。


僕の無意識が覚醒すると、僕の目の前には人里が広がっていた。

それを見下ろす僕。





僕は鳥の目を借りる事が出来てしまうのかもしれない。


痴漢は犯罪!


不意に頭に浮かんだ邪念で僕の意識は森の中の僕の中に戻ってきた。

しないよ痴漢。僕、今幼児。

覗き放題からイコールで痴漢犯罪が浮かぶ僕の前世は健全な中年男性だったのかもしれないとぼんやりと思った。

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