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ジノの見守り

「びしょ濡れだなぁ」

ジノが去った後、廃教会の奥から顔を出したロッツォは水でビシャビシャになった入り口に頭を抱えた。


「ウィガロ兄!ジノの兄貴が連れてきた魔法使いのガキだけど」


年長者からの報告にウィガロが片手を挙げて口を止めさせ。


「聞こえたわ。兄貴廃教会で面倒見るのは諦めたな。ったく……ジノの兄貴も頑固だけど、あのガキャァそれ以上だよなぁ……うち(廃教会)を壊す気かよ!ぁあっくそっ」


ジノの手助けはできず、拠点の廃教会もぐちゃぐちゃで。

直情型のロッツォは苛立ちが抑えられない様子で歯を噛み締めた。


廃教会の床板は木材を貼り合わせた木製の場所が奥に行くほど続いているけれど。

入り口は石畳と土間の材質が混在していて。

少量のみずならまだしも、大量の水となると土間の粘着質な土がぬかるみに変わり足場を重くさせている。

粘土の利点で有る滑らかで石の混じりが少なく、均一な平面を作れる性質が、水が加わる事で見事に裏目に出ていた。

さらに、先程綺麗にしたばかりであった事も不味い。

掃き出して減らしていた土壌を掃除で削り捨てる事になる。

流石に次は粘土の追加も必要だろう。


でも、やるしかない。


そう意気込み、のろのろ動き出す廃教会の子供達。

また1からか。

そんなため息も聞こえてくる。


「ねぇねぇ」

「んえ?」


様子を見ていた僕のぷっくりぽっぺをツンツンしてくるのは、僕に負けないぷっくりぽっぺたを持つノノの小さな指。


「ティオ、魔法使いなの?」

「あい」はい


興味津々に聞いてくるノノに、特に隠す気もなくなってきていた僕はこくりと頷いた。

魔法使いは珍しい。

けれど居ないわけでもない。

孤児にもいる。

それなら僕の立ち位置は多少の魔法は使える子供で有る方が色々と動きやすいと思い始めていたからだ。


「へぇぇぇ。じゃあ、この水なんとか出来るの?」


なんとか。

なんとかとは、元の状態に戻すという事だろうか。

ぬかるみになってしまった土壌の回復には水の回収が欠かせない。

粘土質の土壌の中にまで入り込んだ水分まで取り除く必要がある。

そうするためには熱と、空調と、乾燥。

つまり、火で熱し、風で乾かしながら、空気中の水分を抜いて最適湿度に保つ。

けれども、大衆に馴染みのある水魔法はまだしも、この場で火魔法を使う事にリスクがないだろうか。

僕は魔法使いで有る事を隠さないと決めたばかりだけど、隠さない事と実力を示す事はイコールではない。


人前で火魔法を使いたくない。

なら僕の考えつく理論で可能なのは風魔法。

けれども風魔法も目立つリスクを極力下げる為に使うつもりがない僕には必然的に水魔法だけが残されてしまう。


水浸しの場所を水魔法で修復。

その道筋はどう頭を捻っても僕には見つけ出すことができない。


「できやいでしゅ」出来ないです。

「出来ないのー!えー!ちょっと、ちょっとでいいからやってみて!」

「んえ」

「ねー!おねがいー!ティオの魔法みたーい」

「むむむ、むむ」


命の恩人のノノのお願いを断れる僕ではない。

男ならやれる事をやるべし!


ノノからのお願いに悩む僕を気が付けば周りも注目していた。

集まる視線。

ノノからのワクワクした視線もある。


僕は眉をよせたまま、てとてと進み。

小さなおててを水浸しの床に近づけると前にえい!っと突き出して。


「じょー!」


と手のひらから水をジョボジョボと発射した。

水面に加わる僕の水。

揺れる水面が落下地点から丸い波紋を描き出す。


「はい!遊びは終わり。あんたたち水掬った後、麻布使っていつも通り吸い出しなさい!

ティオちゃん水増やすのやめてよね!ノノは強要しない」


パンパン手を叩き切り替えだとばかりに指示を飛ばし始めた年長の女の子の言葉に、ノノはつまんなそうに口を尖らせ。僕は内心安堵の息を吐き出した。


「魔法使いって万能じゃねーのな」

「汚せても掃除には使えねーのか」


そうですそうです。

魔法にも複雑な理論や制約がありますからそんな便利には使えません。


僕がやってみたのは分離。

僅かながらだからこれからの掃除に対して大きな効力を発する事もないけれど。

水中に溶け込んだ粘土質を濾過するイメージを膨らまし、小さなおててからは濁りのない水を出すイメージをしてみると出てきたのだから。

今僕が出現させた水はもともと此処にあった水を濾過したもので間違いないはず。


よし。


「にょにょ、みじゅかねあじょこ?」ノノ、水瓶はどこ?


僕の問いかけに、ノノは少し考えてから答えを出した。


「ああ、水瓶ね。こっちだけど」


ノノに示された水瓶は大人の腰程の大きな焼き壺で。

ちょうど入り口の対面に置いてあった。

うんうん。いいサイズ。

ただ問題は、瓶の入り口に手が届かない事……。


ううんううんと頭を抱え込む僕の隣で、でもね、とノノの話は続く。


「でもね、この水瓶割れてるらしくって」

「んえ、わえてりゅ」え?割れてる?

「そうなのよ」


割れているなら使えない。

続きを目で促す僕の目の前でノノは大きな水瓶の足元にある大人の膝程の小さな水瓶。


「今はこっちだけかな」


と、紹介された水瓶は僕のおてても届く良心的サイズ感。

いいですね!


「ありあと」ありがとう。

「いいけど。喉でも乾いたの?」

「んんんん」


不思議そうなノノの隣で、僕は先程と同じように両手を前に突き出した。

少し先ほどの場所とは離れて居るけれど。

粘土を水から分離する感覚を思い出しながら集中する。イメージする。

そして。


「じょばー!」


僕のおててからとくとく流れる透明な水が、空き気味だった水瓶に勢いよく流れ込む。


「あ、入れてくれるの?魔法って便利ねー!」


呑気にご機嫌になったノノと、水をご機嫌に瓶に入れる僕。

ノノとは別の場所に立っていたからこそ、誰より早く状況に直ぐに気付いたのはロッツォで。


「まじか!!すげぇ」


彼の声に反応して、ダルそうにバケツや麻布を手にしていた年長者達も歓声をあげる。


「え!何?何が起きてるの?」

「水がひいていく?」

「見ろよ!ティオ坊だぜあいつが抜いてくれてんだ」

「ティオちゃん?!凄い」


嬉しい悲鳴に歓迎されながら、水瓶をいっぱいにした僕は手を止めて様子を見た。

まだぬかるみはあるものの、水分量が先程より少なくなった教会の入り口。

ロッツォは感謝と満面の笑みで僕に指示を出す。


「まだ水出せるなら外に出て捨ててくれぇ!」


あいあい。行きますよ。

その日、僕の水抜き作成は大成功を収めて、その場に居た子供達からの僕の株も急上昇した。

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