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薬売り2

表の喧騒が止んでいき、徐々に冒険者がギルドハウスに帰ってきた。


戻った彼等は空いてる窓口がジノの場所しかないのを見ると、嫌そうな顔をしながらしぶしぶ並んでいく。

それでも、人相の割に孤児の子供のリーダーをしていたジノは面倒見が良いから。

ジノを知る者も知らない者も彼の仕事ぶりをみて一目置き始めるのはすぐだった。




字の書けないものには代筆し、書類仕事が不得意なものに対しても丁寧に指導している。

初日であるのに中々の仕事ぶりだから、僕は感心して眺めてしまう。


的確な事務処理と、手早い処理で。

1箇所しか空いていないカウンターのに回転率が良くさして列が長くならない。

これは、ジノは他の事務員たちよりかなり有能なのかもしれないと僕は思ってしまう。


ジノの仕事が早くてもギルドハウスの賑わいは消えない。

酒場も同じフロアにある事で、酒を楽しむ冒険者が多くいる為だ。


酒場のマスターはギルド受付のように女性やひょろっとした外見の職員ではなく、強面で筋肉質な巨漢のマッチョだった。

こちらはギルド業務とは完全分離型のようで、酒場のマスターは2階にある宿屋と酒場のみを管理している様子。



酒場のマスターを見ていた僕の前にミルクが置かれて、僕は顔をあげた。


「ミルクだ」


「ありあと」ありがとう


温かいミルクを飲んで、僕ははぅっと一息つけた。

横でエルザが「アタシにはエール」といいリクエストにジノは今度は酒場に歩き出す。


「俺にも!」

「俺も俺も!」

「坊主とエルザにだけかぁ?」

という冒険者らには「うっせっ」と一言のみ。

彼等にジノからの差し入れはなかった。








「いってー!くっそー!!」


僕等がギルドで喉を潤してると、冒険者に両方を支えられてウィガロがギルドハウスに運ばれてきた。

せっかく傷を治したばかりであったのに、またもや満身創痍になって。


痛々しい姿の彼はドサリとギルドハウスの椅子に投げ捨てられ。


「あいつ結構やる奴だったわ」


沈みながら唸るように話すウィガロの隣には、彼より随分元気そうな恰幅のいい冒険者がズシリと腰を下ろした。


「俺の連れてった奴はそうでもなかったな」と、一言。

男の頬は薄汚れ、軽装の衣服にも以前より増した汚れが多数みられるもののウィガロとは対象的に元気な様子。


「あいつらモンスター討伐にたまたま居合わせて魔法使うガキを見つけたようだけど。

ダリモアから来た冒険者みたいだね」


男の言葉にウィガロも頷く。


「南なぁ。

そいやぁ貴族絡みの依頼でなんかロカからダリモア行きの依頼がなかったか?」


「あったねぇ。

まぁ、報酬はいいけど、期限も期間も未定だからなぁ」


話し込む彼等の側に、エールを2杯持ったジノが合流する。

「サンキュウ!」と遠慮なく飲み干す二人にジノは「今回だけだ」と悪人面で顔をしかめて。


ジノは更に制服の胸ポケットから二枚貝を取り出すとジノに投げつけた。

軽い調子で「ピュゥ」と口笛を鳴らすウィガロ。


あの貝は鳥の視界から見た事がある。

乾燥で赤くなったマデランの頬にマデランの母が貝から取り出したクリームを塗っていた映像が僕の頭に再現されて。

あの二枚貝の中身はクリームだろうか。

用途は傷薬なのだろうか。

僕は貝の中身にとても興味が湧いてくる。

みてみたい。


ジノの面倒見の良さに感心しながら、僕はウィガロの側まで移動して手を伸ばし。


「うぃがお、しょれみしぇせてきださい」ウィガロ、それ見せてください


「ティオ、またお前は俺こんななってんのに笑顔、笑顔か」


ワハハとボロボロの姿で軽薄な様子で笑うウィガロを、隣の大柄な冒険者の男が疑い深い目で見ている。


「ウィガロ、お前耳は大丈夫か?

そのガキお前の貰った貝見せろっていったのわかってないね?」


男の言葉にウィガロは「おう、これか」と僕に二枚貝を差し出してくれたものの。

「こいつの滑舌悪すぎて俺の耳じゃ聞き取れねんだわ」とギャハギャハネタにする軽薄なウィガロ。





僕は腹が立って、ムッとしながら。

大人の対応。大人の対応と、頭で何度も復唱する。


ウィガロから預かった二枚貝を開いて小さな指にとると、滑りのある白く濁った軟膏が入っていた。

匂いを嗅ぎ取れば、薄く治癒の木の実の香りがするものの、殆どは森で僕が歯磨きに使っていたミントのような爽快感ある汁が出る葉っぱを潰したもののようで。

この白い滑りは、ほとんどがその葉をすりつぶしたものではないかと考えた。

清涼感や爽快感は確かにあるだろう。

だけど、殺菌成分はないと僕は経験から確信しているから、この葉の成分では傷口に塗るには清浄は必須になる。


ウィガロも受け取った二枚貝をすぐに開けようとはしなかった。


僕は二枚貝をウィガロに返すと、エルザがエールを楽しむ席まで戻り。

こそこそ机の上に紙を広げた。

尖らせた黒炭をとりだし、紙に押し付けながら。

知っている物で傷に巧妙のあるもの、今みた二枚貝のクリームの成分予想、配合の割合をかき出していく。

熱心に書き込む僕を覗き込むのはエルザだとばかり思っていたけれど。


「作れるのか?」


小声で聞こえた声がジノだったことに驚いた僕は、戸惑いながら顔をあげた。


「この子、あんたと同じで優秀だよ」と、エルザの後押しも聞こえる。

僕が書いていた紙をみつめていたジノは、しばらく思案しながら。


「出来たら持ってこい。売ってやる」


僕はますます驚きながら。

でも検証もしてない物で、と。沢山の考えが一気に頭に浮かび、ふるふると首をふり否定を返すが。


「大丈夫。不安があれば言えば対処してくれる子よ。だよね?ジノ」と、エルザに背中を押されてしまう。

僕はすっかりエルザに信頼を抱いてしまっていたから、彼女の言葉に肩を押されるまま、こくん、と頷いてしまう。


「まかせとけ」と言いながら。

僕の頭にポンと手を一度乗せて歩き去るジノの背中に。

僕は紙に書き出した配合物を即席で混ぜて葉に包んでいた物をジノの手に握らせた。


「ししゃくひんでしゅ」試作品です


ジノは周囲の目から隠して素早く葉を開くと、指の先につけ匂いを確かめてから、人舐めして。

それから僕に片手を軽く上げるとボロボロなウィガロに近寄っていく。


「んえ」


思わず声をあげる僕にエルザは「目立つ場所でバカなことやる子じゃないよ」と。

僕の懸念を見抜いているかのような言葉をくれて。




エルザの言葉通り、ジノがウィガロに塗りつけたのは僕の渡した試作品でなかった様子に僕はホッと息をはいた。


「なぁなぁティオ。ジノにお前の薬渡した?

俺、首のとこだけ傷なおってんだけど」


分からないようにこっそり人体実験をしていたジノの手際に、僕はまた驚いて。ウィガロの言葉に適当な相槌を返した。





この日を境に僕が調合した傷薬が、ロカの町に少しずつ流れ始めていく。

生産者の僕に繋がるルートは隠されて。

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