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ギルドハウスのルール

「スクロールだぁ!?」


高価ではなくとも、安いものではない。

それを沢山もっていると聞いた男はジノを見た。


ひょろりとした人相の悪い若い男。

金を持っているようにも見えない。

貴族でもないだろう。

だが、もし。

万が一この男が貴族に連なっているなら面倒な事は避けられない。


「……ちっ。ここでギルド登録させねぇってんならもういい。

俺の街で受けさせる。

いくぞ!」


ジノに絡むことを嫌がり、少年を連れてギルドハウスを出ようとした男は。

ジノの腕がまだ少年の肩を掴んだ自分の手首から離れない事に眉をよせる。


「……いい加減放せ」


「カリカリすんなよ。

このガキ置いていきゃ見送ってやるんだから手は放せ」


「なんだと?」


ジノと男の間に剣呑な空気が流れる。

間に挟まれた少年は戸惑うようにジノを見ていた。


膠着状態が続くと思われたが、「あ」とジノが声をあげたことで事態が動き始める。


「俺、そういやギルド受付(見習い)なんだよな」


急に確かめる様に言葉にしたジノに、僕等も男も怪訝な顔になって。

「仕事しないとなぁ」と、言い出すジノ。

ひょうひょうと掴みどころがない様子に男の苛立ちも勝っていく。


「てめぇ!いい加減に」

「聞け」


ジノのあげた指が一本男の前に向けられる。


「ギルドハウス内での暴力行為の禁止事項」


ジノの掲げる正論に、男の苛立ちが勝っていくが。

「お前等じゃねーよ。こいつ」と、ジノが指さしたのは少年で。

はぁと間抜けな顔をする男に、ジノは表情も変えず話し出す。


「こいつ、魔法ぶっぱなしてんだよ。二発も。

ギルド内での暴力行為は冒険者資格の抹消ってもまだ登録もしてない場合該当しない」


ジノの語りだした蘊蓄に、男の苛立ちは勝っていく。

「ならさっさと手を放せ」とジノを振り払うが。


「だが、魔法を使用すると危険度Aに認定されて話が変わってくる。

ギルド内で魔法を使用した暴力行為は冒険者問わず即刻拘束。

でしたよね、先輩?」


ジノの言葉を聞いて嫌そうに出てくるギルド職員の男。

ギルド長の縁者だといわれ、ろくに仕事をしている様子もなかった男の腕にはポチブ家の腕章がついている。


「めんどくせぇ。仕事させんなよ」


ぶつぶつ文句を言いながら現れた貴族の縁者とわかる男の服装に、男も、冒険者等も、エルザでさえも驚いて彼を見ていた。

だらだら歩いて少年の傍まで進んだ男は、彼の肩を掴む男を一瞥し。


さすがの彼も貴族がらみのトラブルは避けたかったのか、口元をわなわなと動かしながらも素直に手を引いて場所を譲る。


「はい。拘束な」


「先輩お疲れ様です」


「うっせ。仕事させんなばーか」


ジノに先輩と呼ばれた男は、少年の肩を押し奥の部屋へと連れていく。


ジノはヒラヒラ手をふり二人の背中を見送ると。

のしのし歩きながら静かに受付のカウンターにひっこんでいった。







呆気にとられる急展開に、男も、僕等も、成り行きを楽しんでいた冒険者等も唖然としたまま。


「ちっ」と舌打ちをした男がギルドハウスを大股で足音を響かせながら出口に向かって去っていく。

彼等が少年に目をつけたのはたまたま居合わせたからなのか。

彼等は何処からロカにやってきたのか。


表で聞こえる喧騒は、ウィガロ達が殴り合いでもしているのだろうか賑やかな騒ぎの方に男は向かって行った。





カウンターの中に戻ったジノは何事もなかったように仕事に戻っている。


僕は考える事がたくさん増えて、静まり返ったギルドハウスを見回した。

混み合っていた窓口からはあっという間に人波がひき、殆どの冒険者は表の騒動にかけつけている。

残った何人かは、まだ開いている窓口でさっさと手続きを済ませる者、カウンターでまだ日も暮れていないうちから酒を楽しむ者とさまざまで。






ギルド受付はやる気のない職員ばかりなのか。

人の居る窓口はジノの所しかない状態になったのもすぐの事だった。


「あんたの先輩貴族かい?」


エルザが問うと、ジノはカウンターから書類を整理する音を響かせながら答える。


「の、縁者らしい」


「へぇ。上手くやれてそうでよかったよ」


エルザはジノの仕事ぶりを見ながら嬉しそうにしている。

「どうだかなぁ」と言うジノの書類の音が止まり。


「エルザ姉、ティオも魔法使いだな」


と、一言。

黙ったエルザと、答えない僕の返事を待たないまま。


「バリア助かった。

スクロールの在庫尽きてたんだわ」


ジノの言葉に呆れたエルザのため息が聞こえた。

「はぁまったく……」というエルザのため息は、ジノに応えているようで僕を見ていたけれども。

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