新入り
「誰だ?」
「あいつ等この街の人間じゃねぇ」
「よその町から来た奴らじゃないか?」
「新参者のくせに目障りだな」
ギルドハウス内に残っている冒険者のざわめきが聞こえる中、ロカの街の者ではないらしい大柄の三人は少年の元までやってくる。
不穏な空気に僕が戸惑う間に、ウィガロがゆっくりと立ち上がり、ジノの隣に立った。
「てめぇは?」
少年の肩に手をのせ、対面のジノを睨みるける男。
隣にウィガロが立ったことにも目を向けず、ジノに怯える様子は無く。
「俺はギルドの受付職員(見習い)お前は?」
「お前だと?たかが職員が偉そうに」
脅しか、本気か。
男の内の一人がジノに向かって拳をふるうが、それをテーブルに乗り上げたウィガロが拳で受け止めた。
「あぁ!?てめぇは誰だ!」
「おりゃぁ(俺は)この受付(見習い)の兄貴分だぁ!」
「邪魔だ!どけや!殺されてぇか!?」
「やんなら表でろや!中で暴れっと受付様にギルド資格取り上げられんぞ!!」
「上等だおりゃぁ!!」
騒々しくギルドから出ていく二人。
ウィガロはついでとばかりにもう一人いた男の首にも腕をまきつけ。
ウィガロの手を払いのけた男だったが、今度はロカの別の恰幅いい冒険者が彼を逃がさない。
脂ぎった腕を回され「まぁ行こうや」と言われながら連れ出される。
三人の中で一番気弱そうだった男は「お、おれは」と、戸惑う様子を見せたが、ウィガロに焚きつけられた男から「とっととぶっ飛ばして戻るぞ!お前もこい!」と一括され、不満を飲み込みこんだ。
「面白そうだな!!いくぞ!」
「ロカにはロカの流儀があるって教えてやらえねぇと」
「ウィガロのやろう。ジノ坊連れ込んでからずいぶん兄貴面してんなぁ一回痛い目みろや」
「やれ!新参者ウィガロをボコせ!」
「ウィガロ!新参者に舐めた態度とらせんなよ!!」
やいのやいのと、傍観者になっていた冒険者たちも面白そうだと何人か出ていく。
ウィガロの口調は荒れに荒れていたが、口端が上向きでニヤニヤ腹の立つ顔で煽っていたから。
あれは技とやっているのだろうか。
僕はエルザの顔を一瞬見ると、エルザは「やれやれ」と言わんばかりに肩をあげてため息をこぼしている。
「男は馬鹿ばっかり」と零した彼女。
そうだね。
ほっておこう。
僕は男ですが幼児枠です。
ジノは相変わらず少年と向き合ったまま。
その隣には、先程よりもずっと静かになったギルドハウスに残る新参者の男の姿もある。
「ギルドハウスで暴れると冒険者資格はく奪か。
うちの斬り込み隊長連れてっちまって、どうすんだ?
おたくの街の冒険者は随分気が荒いな」
少年の肩に手をまわしたままの冒険者がクククッと笑いながらいう。
ジノはニイイと悪い顔に笑みを浮かべて。
「どっかの街から迷い込んできた迷子にはルールを教えてやらないと。
先に手を出した方が悪って」
「なんだと?」
「そのガキから手を放して失せろ」
ジノの容赦ない物言いに、男は青筋をたて、片腕を乗せていた少年の肩にも力を籠めようとしたが。
ジノが身を乗り出して片腕を伸ばし、少年を掴む男の手をつかんでいた。
ギリギリと込められるジノの力。
ひょろりとした体格で片腕になってしまっていても男の暴挙は防げた様子。
けれども、男は自分の手を掴む片腕のギルド職員に目を向け、嫌な笑みを浮かべている。
「反対側ががら空きだぜ」
言うがやいなや、腕のないジノの側面を殴りつけようとする男。
僕は凄く嫌な気分になって。
きっとジノはまたスクロールで防ぐんだろうなぁと思いながらも水の膜を作り出す。
バシュッと僕の張った水の膜に弾かれる男の腕。
男は直ぐに隣にいた少年を見下ろすが、「俺じゃねぇよ!」と、すぐさま彼は否定した。
何も言わないジノ。
彼の代わりに、黙って成り行きを見守っていたエルザがぼそり。
「その職員さん護身のスクロール山ほど持ってるわよ。新参者さん」