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受付のジノ

モンスター討伐の報酬を求めてギルドにやってきた僕たちは、人相悪く受け付けに陣取るジノの姿をみて吹き出した。


「ぶははははっジノやべぇ!ひーっ」

「アンタどんだけ眉寄せてんのよ」


ロカの街のギルド受付は、担当日は違っても殆ど女性が勤めている。

男性もジノの他に一人いるが、彼はロカ支部長の縁者のようで滅多にカウンターには立たない。

その為、人相悪く。

華やかさと別の意味で人目を惹くジノの姿は、ウィガロがお腹を抱えて笑うくらいには違和感で、ジノを知らない冒険者達の中にも不審に思う人間が多いようで。


モンスター討伐の清算で混み合うギルドの中。

ジノのカウンターだけガラガラになって。

受付にたつジノは遠巻きにされ浮きまくっていた。


「俺の推薦者は誰だった?」


ジノの冷めた目がギャハギャハ笑うウィガロに向く。

ウィガロは「すまんすまん」といいながら頭をかき。

「記入しろ」と、ジノから突きつけられた紙を受け取った。


有事の時の清算はどう処理されるのか気になっていた僕は、エルザの腕のなかから彼女も受け取った書類を覗き込む。


討伐対象名、名前、所属、陣形。

よっつ?!

四項目しかないシンプルすぎる申請書類に僕は目を丸くする。


「ティオは冒険者登録まだだな。功労者でも今回は諦めろ」


ジノからの声に僕はまた驚いた。

まるで僕に報酬を得る権利があるにもかかわらず出せないみたいに言うのだから。


「じにょ、ぼくはかくれてただけでしゅ」ジノ、僕は隠れていただけです。


「へいへい、そんならそれでいい」


僕の否定はぶっきらぼうにぶった斬られてしまった。

そんならそれでいいってどんな言い方してるんだろう……。


はぁ?と困惑した顔でジノをみていると。

エルザがククッと笑いながら僕をゆっくり降ろしてくれる。


「ティオも小さいのに聡いけど。ジノも昔からそうだったんだよね。

とにかくよく気付くから、あの子に隠し事は無理」


僕の中にはおじさんが入っていますので、ジノと同じではありません。

なんて事は言えない。


へえええ、と頷くに留めた僕に、ウィガロが「わかるわぁ。ティオみてっとジノがちいせかった時思い出すのよ」なんて言ってくる。


僕と一緒……。ジノにもおじさんはいってますか?



僕はばかなことを考えながら、記帳に勤しむ二人を見て時間を持て余す。

エルザもウィガロも字がかけるようで、エルザの字は慣れない手つきで丁寧に。

ウィガロの字は僕には読めないくらい踊りを踊っていた。


僕はカウンターの先のジノをみた。

エルザにおろしてもらったから、僕の立つ床からジノの姿はみえなくなっている。


「じにょ」

「ん?」


せり出した天板で見えない高いところから、僕の声に答えてくれるジノ。

僕は初めての依頼書をもっていった時、受付のリンダにあしらわれてしまったから。

直ぐに応えてくれるジノの声に少しだけ嬉しくなる。


「よっちゅちかかかにゃいでなんれわあるにょ?」(項目が)四つしか書かれていないのに何で分かるの?


「あぁ。書類は形式上残してるだけだ。

誰が参加して誰が居なかったかなんて同業者がみてる」


言うがいなや、ジノはスリッパを振りかぶると前方に投げつけた。

僕の位置からは、急にスリッパが発射されていくのを見守る形になる。

放物線を描いて飛んでいったスリッパは、別の受付で難癖つけていたスキンヘッドの冒険者の頭にクリーンヒットして。


「いてぇ?!誰だぁ!」


と、振り向いた男の先には、「俺だわ」と言いながら。

ギンと淀んだ目で睨みつける悪人面で片腕のジノ。


「お前参加してねーだろ。却下してんのに何回申請しにくんの?」


ジノの問いかけに、男を睨む目は周囲の冒険者等にも感染していく。


「だせぇ」

「居なかったの知ってんぞ」

「帰れ!帰れ!」


と、ざわつきはじめた周囲の圧。

男は「くそっ」と悪態をつき逃げ出した。


「ああなる」と、ジノ。

へええええ。

僕は感心してうんうん何度も頷いた。

頷きはジノからは天板で見えない位置だけど。


「もいっこいいれしゅか?じんけいってなんれしゅ?」もう一ついいですか?陣形って何です?


「あー。前衛、後衛っつたらわかるか?武器の種類によって場所も違うしなー。

大体の奴らは自分の職業書いてるなぁ」


ほうほうほう。

つまり何処等辺にいたが場所を記入する感じ。

へええ。

僕は知識欲が満たせて大満足だった。


「ジノすげぇのな。俺ティオの言葉聞き取れねんだわ」


僕らの会話を聞いていたウィガロの正直な言葉に、僕はまたスンとした顔になる。

僕の舌っ足らずな呂律の悪さは本当に死活問題で僕だって恥ずかしい。


「ウィガロ兄は耳詰まってねぇか?」


ジノのツッコミに「それか!」とふざけて大袈裟に手を鳴らすウィガロ。


軽薄な彼が僕は嫌いじゃないけれど、腹は立つ。

早く噛まずに喋りたいと僕は強く思った。


「ウィガロ兄随分ピンピンしてるな」


提出された書類を受け取りながら、ジノは治りかけの傷しかないウィガロをみて呟いた。


「ニシシシ。俺の立ち回り上手いっしょ」


ウィガロは僕の薬を誤魔化したつもりで、僕に片目をつむって合図を送ってくるが。


「……働いたんだよな?」


「はぁぁぁ?!」


可愛がっている後輩ジノから向けられた疑いの眼差しに、ウィガロは驚愕して前のめりでカウンターに上半身を突っ込んだ。


「みてみて俺の相棒こんなよ?!」といいながら、カウンター内に乗り出し、刃先の欠けた短剣を差し向けるウィガロ。


うわぁ……。

見方が違えば脅迫される強面男と冒険者である。

僕の位置からはカウンターの天板からジノの下半身が突き出し、足をバタバタしている様子が見えるから。

躍動感あふれるもがきを下から見上げるかたちになって。


僕は遠い目になり、エルザは楽しそうに笑っていた。

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