功労者の少年
「おい。これ致命傷は額の傷じゃねぇか?」
「そんなわけない。焼け死んだ後に裂けたんだろ」
「モンスターの脳天貫通させる斬撃なんて、どんなバケモンだよ。黒騎士モーベン・カネラクラスにならねぇと無理無理」
「ハハハハ」
「いや、待てしかし」
壮年の冒険者がモンスターの遺体を取り囲み論議している。
「行こう。面倒は御免だよ」
エルザの小さな呟きに、同意した様子でウィガロも後を追う。
僕はエルザのスレンダーな固い腕に抱きあげられたままで。
「うぃがお、きじゅのちりょおおしまちょう」ウィガロ、傷の治療をしましょう。
傷だらけでぼろぼろのウィガロを気遣う僕だけど。
「はいはい。笑顔笑顔。こんなボロボロになった俺に笑えってか?」
リスニング力の無いウィガロにはいつものように伝わらない。
僕はいつものようにスンとした表情になり、彼への説明を放棄した。
「えるじゃ、そこのきのちょこおりょしてくだちゃい」エルザ、そこの木の所に卸してください。
「いいけど、どうしたんだい?」
木の根元に降ろしてもらった僕は、幹に抱き着くとスルスル、スルスル登っていき。
麻袋を小さな片手にもち、シュルシュル、シュルシュル降りた。
「子猿か?」
ウィガロの突っ込みに冷たい目を向けながら。
「ありあとです」と伝える僕を、エルザは興味深そうに見ながらまた抱え上げてくれる。
抱え上げたところで、「それ、治癒の木の実だね」小声で問う声に。
僕は敵わないなぁと白旗をあげた。
パンパンに膨らんだ麻袋の結び目からは高価な木の実がみえている。
エルザに案内された場所は、民家が並ぶ通りの中の他と変わり映えない一軒。
民家の立ち並ぶ周辺には、井戸が設けられ。
その周辺には住民が多く出てきて井戸端会議にいそしんでいた。
「怖いわね。またモンスターがでたって話よ」
「今度のも苦戦するんだろうな」
「お貴族様ももう少し外壁の警備を強化してくださればいいのに」
「しっ衛兵に聞かれるよ!」
彼らの世間話には混ざらず。
エルザは勝手知ったる様子で民家に入っていき、ウィガロもその後を追った。
もしかして、ここはエルザの家だろうか?と。
キョロキョロしながら家の中に目を走らせる僕。
部屋の中はシンプルで、台所と居間が続きになり奥には個室が一室。
もう一室は浴室だろうか。便所だろうか。
天井に吊るされたランプには油入れが無い。
蝋燭で灯りをとるのだろうか?
図形が刻まれている。
マデラン親子の家のランプにも刻まれていたのを見たことがある。
廃教会では子供達が集めて帰った薪で灯りをとっていたなぁ。
よく見れば台所の流し台には何か図形が刻まれている。
街中の水路にあるものより小さいけどきっと同じ物だろう。
多分、あの図形が何らかの魔法回路になっていて、用途は排水。
排水と灯りの図形は違うのだろうか。
僕はエルザの腕から身を乗り出して、ランプを下から覗き込んだ。
「フフッ珍しいかい?」
物珍しく見ていた僕をエルザが嬉しそうに見ている。
「ここな、ジノの持ち家なんだ」
ウィガロの言葉が予想外だった僕は彼に振り向いた。
ゆっくり床に降ろしてくれたエルザの腕から離れながら。
ウィガロは、どかりと床に胡座をかいている。
「取り上げたとかじゃねーぞ。あいつの親が住んでた、あいつが赤ん坊ん時暮らしてた家だ」
話し始めたウィガロに近寄る僕は、緑の葉っぱを手のひらでよくよく揉み込み、治癒の実をギュッと潰して。あわせて混ぜ込む。
「俺とエルザはジノからここ使う許可もらってんの」
ニカッと笑うジノの服を小さなおててで捲り上げたぼくは、練り上げた薬を塗り込む、塗り込む、塗り込む。
「うへぇつめてぇっ
なんだ?!この紫のやつ?」
ウィガロが何やら騒いでいるけれど。
僕は構わず、彼の傷ついた頬にも塗り込んだ。
「この葉は毒消しかい?」
エルザは物珍しそうに僕の出した薬草をつまみあげる。
「あい!このみっちゅをまじぇるとさっきんのこうかもありましゅ」はい!このみっつを混ぜると殺菌の効果もあります。
「へえ。清浄しなくていいってのは便利だね」
興味深く手元を見るエルザとは違い、きっとリスニングに失敗しただろうウィガロは何も聞けていないだろう。
僕がウィガロに目を向けると。
「うおっっすげぇ!!この薬、清浄要らずか?!ティオやべぇな!」
と、大興奮で自分の傷の経過を見ている。
言葉が通じないのに本能で僕の言葉を当てたようだった。
リスニング力がない彼との対話に僕がとるべき対策は実地なのかもしれない。




