黒騎士とかくれんぼ
怖い。
僕は全身で驚いて、鳥の姿のまま木から落ちそうになり。
「おっと」
みじめにも、黒騎士の大きな手のひらで受け止められ、難を逃れる。
「危害を加える気はない。落ち着け」
危害を加える気がないのは朗報です。
僕はどくどくと小さな口から飛び出そうに動く心臓の鼓動を感じながら、無表情のまま木の枝に腰を掛ける黒騎士の手のひらの中でビクビクブルブル震えている。
何でここにこの人がいるんだろうか。
いつからいたのか。
彼は僕が鳥に視界を借りて覗き見している時にも鳥の僕を追えるのだろうか。
なんでだろう。
僕は僕の存在が大きくならないよう努めて小さく小さく霞ませていたし。
野生の動物に対してそれが有効だったことをしっている。
この男にはそれが通じないのか。
それなら、ロカの街であれ以来捕まることがなかったのは、この男が僕を泳がせていただけ?
僕はうんうん、うんうん考える。
頭を沢山悩ませる。
考えて考えて考えても混乱から脱しないまま。
「小鳥とのかくれんぼは難題だった。
一度捕まえた後からは、ずっと見つけられずにいた。
不思議な気配もあったが、それが何なのかも分からなかった」
喋りだした黒騎士の言葉を、僕は頭をぐるぐるさせたまま、ただただ聞いている。
「だが、人になった小鳥を見つけてからようやく正体が分かった。
ずっと不思議に思っていた」
人の姿の僕を見つけた時から何かよくわからない気配が、何かわかるようになって。
かくれんぼは黒騎士の勝ちにきまったらしい。
さっぱりわからない。
不思議に思っていた、何をだろうか?
「小鳥からは時の石の気配を感じる。
なぜだ?」
時の石?
僕はさっぱり分からなくて、手のひらの僕を無表情に見下ろす黒騎士の視線にぴぃぴぃと鳴いた。
ぴぃぴぃ鳴いた僕をじっと見つめたままでいた黒騎士は、僕が足を滑らせくい大き目の枝にそっと小鳥の身体をおくと。
「まあいい。
小鳥は悪い者ではないようだから、今はお前を見守ろう」
何かを試されていたらしい僕は、黒騎士の御めがねに敵ったらしくて見逃してもらえるらしい。
まったく何も分からない。
だけど、彼にとって僕が危険と判断されていたら。
僕は彼の手で狩られていたのだろう。
黒騎士にはそれができるし、僕はあらがうけれど、勝てる未来は思い浮かばない。
背中から冷たい汗がどっと噴き出してくるのを感じる。
怖い。
彼と僕は強者と弱者で、僕は彼に見張られている。
これからもそうなのだろう。
「時の石をもっている様子はないな。
だが、小鳥が力を使う時、石の気配がつよくなる。……なぜだ?」
まったく見覚えのない物の存在を訪ねる黒騎士。
なぜだなんて分からない。
何も知らない、何も分からないから僕は答えられない。
石、石、石。
森にあった石の何かのことだろうか。
実験の為に地面に文字を書くため、書きやすい形の石を削り出したこともあった。
砕いた石が僕の身体に残っている?
分からない。
鳥のままぶるりと身をふるわせる僕から、ついと視線をそらした黒騎士は。
「今日でこの街を離れなければならないが、また来る。
小鳥は相手の力量を本能で気づくようだ。
俺の様に気の長い人間ばかりではない。
力を使う時は気をつけろ、時の石を知っている人間には近づくな」
意味深な言葉を言い残し、黒騎士は僕の目の前から消え去った。
のろのろ木から降りていったわけでも、滑るように木から降りていったわけでも、木から飛び降りたわけでもない。
文字通り、目の前から消え去った。
ありえない。
だけど、現実におきた。
なんでだろう。
僕の頭に一つの仮説がよぎる。
法則も、原理も、理論も無視した超常現象。
それを僕も使ったはずで。
……まほう?
黒騎士の消えた空間を、鳥の視界を借りたまま、僕は呆然と見つめ続けていた。
時の石を知っている人間には近づくな。
最後に黒騎士は僕にそう忠告していった。
時の石が何のかも。
僕から何故その石の気配がするのかも分からない。
分からない。
僕は考え始めて止まらなくなった。
いつしか、ジノとウィガロの姿もなくなり、小高い丘の上には石だけが寂しそうに残っている。
丘が見降ろせる木の上で。




