森と平地を分ける罠
ひたすら動き続けた僕は、気づけば森のはずれに立っていた。
目が覚めてから初めて僕は森を抜け出したのだ。
ひらけた場所を見つめ、森を背に呆然と立ち尽くす僕に向けて急に向けられた攻撃。
頬をかすめ飛んでいく石が視界の隅を横切った。
投石?
身構えるまもなく、気がつけば眼前にいくつもの石が迫っている。
迫る大量の石になす術なく立ち尽くす僕。
しかし急に石がゆっくりとスローモーションに見えた時、僕の頭にはあの映像が浮かび上がってきた。
僕の大好きな温かい狼。打撲痕と、火傷、それから裂傷でボロボロになり傷つけられた冷たくなったあの時の姿。
森で出来たものでは無いその傷が出来たのは、僕が狼には必要ない人間の服を願った後だった。
今、その服を着た僕に今度は石が投げられている。
幼い姿の、歩き出したばかりの守られるべき幼児に。
僕は腹がたった。頭の中が真っ赤な怒りに染まっていく。
この石は僕が大好きな狼を傷つけたのかもしれない。
そして次は狼が育てた人間の幼児に。
怒りで真っ赤に染まった僕の瞳からは赤い光を出し初めた。
湧き上がる力。向かってくる投石群に僕は小さな両手を向け。
「みじゅよ」
若干噛んでしまった気合いの一言は、僕の脳内でも叫んだ「水よ」の言葉に従い水の膜を作り上げて投石の意欲をバリバリと弾き飛ばしていく。
水と石がぶつかり合う大きな音が地鳴りの様に鳴り響いた。
「×××だ?!××××か?」(なんだ!?まものか?)
ざわざわと人影があつまってくる。
僕がこの小さな身体になってから初めてみる人間たち。
臆病な僕は素早く小さな身体を森の中に隠した。
「××××ぞ!××××なぁ」(罠が動いてるぞ!ここに何か居たのは間違いねぇなぁ)
え?何語?森の中から隠れて様子を見ていた僕は青ざめる。
何を言ってるかさっぱり分からないのだ。
日本語でも英語でもない。
やばい。とりあえず森に篭ろう。
小さな身体になってから初めての人間との対面は僕に最悪な印象と、超えられない言葉の壁を突きつけ。これ以上ない程に印象的な出会いになった。
森で引きこもりの生活が頭をよぎった僕だったけど、前世の感覚が僕の足を人里へ人里へと向かわせる。
狼の傷、僕に向けられた投石。言葉の通じない人間達。
悩みながらも、一晩よくねた次の日には、足は再び人里を目指して歩いていた。
憎らしく、それでも焦がれる人の世界に寂しい僕は引き寄せられている。
どうやら、僕はどうしようもないくらい人恋しいようだ。
足を止め立ち止まった僕は考える。
狼、石、そして小さな両手でを広げてみた時には紅葉のサイズの小さなその手には毛もなく指が5本ずつ生えている。
僕が人間だという事は否定できない。
うんと考えた僕は、顔をあげて前を向く。
人里にいってみよう。
かなり怖いけれども。
僕は心を決めた。