弔いと出発と、捕まった鳥の僕
僕は好奇心が強い。
気になると、落ち着かなくなってどんどん調べてしまうくらい。
そんな僕だから、今回も自制心に負けた。
僕は、僕の好奇心を満たす為、彼等の行く先を覗いてみたいと思った。
壁によりかかりじっと目を閉じ一人静かに集中。
思い浮かべるのは、今朝ノノに連れられ廃教会についたばかりの光景。
朝の日差しに照らされる木の枝に居た小さな小鳥。
「あれ?ティオ寝たの?」
「ティーちゃん小さいのにがんばってたからねぇ」
「寝かしといたげな。俺らは先に仕事行こうぜ。ノノは今日はそのチビ案内すんの?」
「そうよ!ティオの事案内してってジノ兄から私が頼まれてるんだから」
ノノと子供達が話す声が聞こえる。
ノノはお姉さんになったようにツンとすまして。
子供達の仕事とは、彼等は何処に行くのだろうか。
僕は鳥の視界から以前、彼らが束ねた小枝や、木の実や花を売っていた姿を見たことがある。
商業地区でスリをしていた姿を見たこともある。
彼等の行く先も気になった。
気になることが沢山ある。
ここは沢山の人がいるから、僕の好奇心は忙しい。
だけど集中。
集中。
僕は沢山の雑念を一つ一つ隠しながら。
ジノとウィガロの後を追ってみたいと目を閉じたまま小鳥を思い出浮かべ。思い出す。
ふわっと景色が変わり、僕の視界が鳥の視界にかわって。
朝よりも少し離れた場所にいた小鳥に視界を借りた僕は、ジノとウィガロの姿を追いかけた。
病み上がりのジノを支える二人の足はゆっくりで、鳥に視界を借りた僕は直ぐに二人の姿を見つけることが出来た。
朝の柔らかい日差しの中、廃教会の裏手にある小高い丘に登った二人の姿。
彼等の足元には、ポツンと白い石が置かれた場所。
その石はなんだろう。
少しだけ見晴らしのいいその場所にある石がなんだかとても存在感をもっている。
ウィガロに支えられながら、ジノがよたよた石の前に座り込む。
「すまねぇ。お前が気にかけてたはぐれの遺品は何も残ってないらしい。全部片付けられちまったって」
「いいって」
「俺がもっと早く動いてればよかったのに」
「いいんだって兄貴。嫌な思いさせちまったんだ。俺こそすまない」
二人の姿を盗み見ながら、僕はなんだか悲しくなる。
事故の状況をウィガロに語った、ギルドに居るジノ達の兄貴分に話を聞きに行くと言っていたウィガロ。
持ち帰ったものは何もなく、しょんぼりと肩を落として帰ってきた彼の姿。
孤児のコミュニティを出て独り立ちした者たちすべてが、孤児に目を向けるわけではないようで。
エルザやウィガロのようには熱くなれない者もいるのだろう。
それが悪い事だとは思わない。
自分が生きて行くことさえ大変なのだから。
他者に向ける優しさをどのくらい向けられるかは、状況も、環境も、感情にも左右される事だと僕は思うから。
自分に余裕がない人間は他人に優しくすることはできない。他人を気遣う余裕はない。
薄情だと責める無責任な感情はない。そう思っている。
だけど。
僕は悲しい気持ちになる。
僕と同じ寂しい人だから他人事には思えなくて悲しくなる。寂しくなる。
名前もしらない、命を落とした子供。
馬車に轢かれた1番の被害者。
ジノは子供の事を気にかけていたから駆けつけたのに。
その事でジノは片腕を失った。
ウィガロはジノの救助に動いていたから、彼にとってジノより優先されなかった亡くなった子供の事は後回しになってしまったのだろう。
コミュニティにはいれていなかった、はぐれの子。
僕と同じはみ出し者。
何も残っていないんだ。
何も。
僕はとても悲しくなって、借り物の目から涙が零れるんじゃないかと思うくらい悲しくなって。
きっと一人なくなってしまった命に共感したんだと思う。
ジノは、目の前の石をそっと撫でた。
「俺たちは、ここでこうして何人見送ってきたかわからない」
ぽつりと溢れたジノの呟きが僕の胸を締め付けた。
ここは、彼らにとって遺品も残されず旅立ってしまった子供達を慰めるお墓ののかもしれない。
ウィガロが赤い身を「たむけに」といってジノに渡す。
「ウィガロ兄、俺は無力だから。
兄貴達の助けがなかったら、今頃俺もここに居た」
ジノの言葉に、ウィガロは嫌そうに顔を歪めた。
「助かったんだから、縁起でもねぇ事口に出すなよ」
「悪い……。感謝してる。
だけど、あいつにも、生きてまた会いたかったなぁ……」
何も残ってない。
何も残らなかった子供の事を、ジノは覚えている。
ジノが生きているから覚えている人がここにいる。
ジノの第一印象は僕にとって悪人だった。
小さい子から報酬を受け取っていたのを見たから。
カツアゲだ、と。
お金を巻き上げてるゴロツキにみえた。
スリをして逃げていく子供をニヤケてみていたこともあった。
子供が隠れた路地の先で、ジノは子供から何かを受け取っていた。
悪い奴だとおもった。
だけど、彼は人望に溢れていたようで。
彼が居ないと騒ぐロッツォやコミュニティの仲間たち。
街中探し回り、エルザやロッツォも巻き込んで。
救出された彼は死んでもおかしくない大怪我を負っていたのに、躊躇なく高価な治癒の実を差し出したエルザに命を救われて。
黒騎士と、僕というイレギュラーにも出会って一命をとりとめていて。
僕が見誤っていたジノは、人望があって、孤児ばかりの子供達を預かるリーダーで、ウィガロはジノの為に人生を投げ出そうとまでした、まるで人望者。
そんなジノが、助けられなかったはぐれの子供の為に涙を流している。
ウィガロが一緒にいるけれど、子供達の前ではきっと泣かないんだろう。と、想像もできるから。
僕はジノへの認識を改めて。
心の中で、彼らが囲む白い石に向かって僕はそっと手を合わせた。
ウィガロに差し出された赤い実を、ジノは受け取り石に供える。
「ウィガロ兄、廃教会はロッツォに任せたいと思ってる」
「そうか。ジノは先ずは身体治すのが先だろしなぁ」
「そりゃそうだ。
兄貴、俺は廃教会をでる。
そして、あいつらがデカくなった時に寄りつける場所をつくりたいと思う」
「いい目標だな!応援するわ。で、具体的にはなにすんの?」
「ギルドっを作りてぇって言ったら笑うか?」
「マジで言ってんの?!うひょう最高じゃねぇか面白れぇな。ロカのギルド支部乗っとってやんの?それとも一からつくんの?」
「まずは……」
「ティオ、ねぇ起きてよ。いつまで寝てるつもり?」
ノノの声が聞こえる。
目を閉じた僕を起こせうと身体を揺さぶっているのが分かる。
ウィガロとジノの話は続いているから。
とても興味深い話で、前を向き、生きていくジノを僕は応援したいと思った。
話を聞きたいと思った。
だけど、話の続きは今じゃなくていいとも思う。
ジノがウィガロに語るすべてを僕が盗み聞かなくても。
彼が前を向いて進んでいくなら僕を巻き込んでくれる。
そう思った。
これ以上覗き見はやめよう。僕はそう思い。
鳥に借りた視界を閉じようと、ノノの言葉に答えよう、と。
ゆっくり目を開こうとした。
その時。
「小鳥は悪い人間ではないが、危ういな」
鳥から視界を切り離す前だった僕の、すぐそばから聞きなれてきた低音の声。
僕は鳥になったままビクリと隣に目を向け。
僕の止まった木の根元にいつのまにか腰掛ける、長身の悪魔の姿。
そこに居た声の主は予想通りの人物で。
僕は、驚きと恐怖に支配され言葉を失った。




