僕の秘密の拠点
人里に降りてきたばかりだった僕が過ごしたこの一日は、とっても濃くて、スーパー幼児な僕が弱音を上げてしまうくらいの出会いとアクシデントを経験した一日だった。
何を考えているかさっぱり分からない恐怖の黒騎士の肩に跨った僕は、緊張と、疲労と、規則的に森で過ごしてきた習慣とがあわさって。
こくり、こくりと首を振り始め。
こてん、と寄り掛かった僕の首の重さは黒騎士も感じていただろう。
すっかり眠ってしまった僕は、その後の事が分からない。
だけど、穴の入り口から差し込まれる日差しに、朝の訪れを感じ、ゆっくりゆっくり目をあける。
隣にあるのはもふもふの毛むくじゃらで。
僕が居るのは、僕が拠点に決めた穴の中。
朝か。
狭い穴の中では十分に身体を伸ばすこともできない。
僕はのろりのろりと、出口にむかい、ゆっくりと外に顔を出すと。
「おはようティオ」
「んえ!?」
穴の入り口には予想外なノノのお顔。
寝ぼけた僕は驚いて、目をぱちぱちしながら必死に頭を動かす。
僕がここを見つけたのは鳥の視界からでずっと前だけれど、僕がここを拠点に決めたのは昨日の事で。
ノノどころか誰にも伝えていない隠れ家、の筈。
知っているのは予定外の先住者わんこと、僕のふたりだけ。
どうしてノノがここにいるのだろうか。
そういえば、昨日あれから僕はどうやって此処に帰ってきたのだろうか。
謎がどんどん増えていき。
うんうんうんうん考える僕。
朝の僕の頭はまだまだ起きていないようで、頭を悩ませても悩ませても答えは出てこない。
うんうん頭を抱えるぼくを、ノノが小さい手を穴に突っ込みひっぱりあげようとぐいぐい、ぐいぐい引き始める。
なされるがまま、ぐいぐいずりずり引っ張り出される僕。
ノノはううん、ううんと力みながら。
「黒ちゃんに、ここを、教えてもらったのよ」
と、声を絞りだす。
黒ちゃん……。
僕の頭に、恐怖と、気まずさと、あの長身の黒い悪魔の姿がよみがえる。
いや、まさか。
違う黒ちゃんだろう。きっと。
「くろちゃん?」
復唱した僕に、ノノはこくんと頷いて。
「ほら、ここに」
彼女が指さしたのは、僕が引きずり出された穴の入り口のすぐ隣。
「んえええ!?」
入り口の横で蹲るように小さくなった黒い大男の姿に、僕は驚いて穴の奥に転げてのけ反ってしまった。
衝撃。
僕の一番会いたくない黒ちゃんがそこに居たのだから。
「ああもうっ。せっかく引っ張り出したのに!出てきなさいティオ」
すっかり姉貴気分のノノが弟分にされた僕を呼んでいる。
僕の名前はティオではないです。なんて考えも、もうどうでもいい。
僕はこの得体の知れない黒騎士がとにかく怖くてどうしていいか分からない。
何で僕の拠点の入り口にこのラスボスの様な恐怖の大男がいるんだろうか。
僕はうんうん頭を抱えた。
そういえば……。
だんだん頭が覚醒し始め、思い出し始める昨夜の数々。
んあああああ。
もう、どうしていいか分からなくなって、ぐるぐる考えながら、僕はぐるぐる、ぐるぐる頭を悩ませ。