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緊急措置※残酷な描写に注意(怪我)

わんこの背にまたがった僕は薄っすらと暗くなっていくロカの街を駆け抜ける。

「おいっ」

と、日暮れ時にわんこにまたがって移動なんて不審な僕を何度か呼び止める大人がいたけれど、僕たちは足を止めなかった。

幼い子供の身を案じる人もいるだろうけれど、そうでない人の方が残念ながら多い時間。


ジノを悪人だと考えていた僕に人の善意を見抜ける力はない。


「なんだぁ?さっきのはぐれじゃねぇか」


スタスタ軽快にかけていくわんこと、その背の僕に何度目かの声がかけれられる。

「さっきのはぐれ」と僕をさすその言葉、その声。


僕は止まりたい!振り返りたい!と願い、その気持ちに答える様にわんこは止まってくれた。

賢い!!

わふわふしてる僕より大きめのお顔の下を、僕は小さなおててでわふわふなでて。


「うぃがお!」ウィガロ!


僕に声をかけた青年に向かって声をかけた。


「何その笑顔(えがお)みたいな呼び方……俺の名前か?」と、相変わらず軽そうな青年の印象の彼は紙袋を抱え周囲に視線を走らせた。


「お前ノノに連れて帰ってもらったんじゃなかったのか?

もうおせぇとっとと帰れよ」


僕を遠ざけたい様子のウィガロは足早に先を急ぐ。

それについていくわんこと、その背に再び乗せてもらった僕。


「……わかった。後で送ってやっから。そこの路地の影んとこに隠れてろ」


ウィガロは帰り道が不安でついてきていると思ったようだけど、残念ながら違います。

歩調を早めるウィガロに、ぴったりと付きまとうわんこ。と、その背中の僕。


「……ついてくる気か?その犬何なの?お前の犬?」


「しあないわんわよ」知らないわんこよ。


「しわしわワンコか。よくわからんが、マジでついてくんな。後悔すんぞ」


知らないわんこが、僕の呂律でしわだらけのわんこにされてしまった。

わんこ、どんまい。

僕はこっそり心の中でわんこに手をあわせながら。

わんこのしわより、ウィガロの言う後悔が気になっていた。


紙袋をもって急ぐ様子の彼。

僕が嗅覚を研ぎ澄ませば、紙袋から消毒の匂いが漏れてきているのを嗅ぎとれる。

消毒。


急ぐウィガロ。消毒。子供が見ると後悔する。


もしかして。


僕はついてくるなというウィガロの言葉を無視してわんこと彼をしっかりぴったり追いかけた。











ウィガロが向かった先は、商業地区の裏手にある古びた小さな小屋。

入り口には黒髪の美丈夫がよりかかっている。

黒騎士だ。


黒騎士モーベン・カネラは、駆け足で小屋へと急ぐウィガロを無言で招き入れ、そこに続くわんこに跨る幼児な僕を不思議そうにみた。

駆け込むウィガロ。

そして続くわんこと僕。


僕の鼻が血液の匂いを拾ったのは、嗅覚を研ぎ澄ましていたからではなかった。


むせかえるほどの血の香り。


小屋の中には横たわる少年の面影を残した青年。

そこにつきそう悔しそうなエルザの姿がある。


青年はおそらくジノ。

あちこちケガを負っている様子の彼からは、強烈な血液の匂いが漂い。

あるべきものがなくなっている。

特徴があった、すらりとした彼の……片腕が。



ウィガロが紙袋を開き消毒液を取り出した。

彼は急いでそれをどばどば傷口に浴びせると、ジノの口からはうめき声があがる。

苦しそうにもがく彼の姿に、ウィガロのひょうひょうとしている顔にも苦悶の表情が浮かび上がっていった。


びくびくと身体を動かすジノの身体を支えながら、エルザは素早く僕が彼女に渡した木の実をつぶしジノの口へと流し込み。

むせ返る彼の身体をいたわりながら、細く筋肉に覆われた彼女のしなやかな腕で補ていした。


消毒、そして実の経口補給。

いい手際で、最善の選択をとる二人の姿を僕は見ていた。

あの木の実は万能薬と呼ばれる治癒力の高い木の実だから。

失った片腕が生えてくることまでは期待できないけれど、傷口の再生にはおおきな役割をきっと持つはずだから。

消毒で菌を除去して、木の実を摂取してからの再生。

文句のない処置だし、荒事に慣れている二人は流石だなとおもった。

でも、エルザに渡している木の実は一つ。

これだけの傷を負ったジノに一つではたりない。




ウィガロに視線を向けた彼女は、自然と後ろにいた僕たちも目に入ったみたいで。


「なんでティオがいるんだい」


応急処置から一息ついたエルザの声は精神的なものからなのか酷く掠れつかれていた。

それにしても、当然のようなティオ呼び。

僕はティオではないけれど、エルザとノノのなかでは僕はすでにティオで定着しはじめているけれど、彼女はティオがノノの持つ熊のぬいぐるみの名前であることを知っているのだろうか。


「うぃがおがちゅれてきた」ウィガロがつれてきた。


と答える僕にエルザは厳しい視線をウィガロに送る。

ぶんぶん首をふるウィガロ。

ウィガロを売って視線をそらせた僕は、犠牲になった彼へのフォローはしないまま、血を流すジノの傍に臆することなく近寄り。


ポケットからエルザに渡したものと同じ木の実を三つ取り出す。

いち、に、さん個。

エルザの細く固い手の平にそのうちの一個をのせると。


「まだ持ってたのかい。でも、いいの?」


貴重な実をあっさり渡す僕に躊躇しながら彼女は訊ねた。


こくりと頷く僕。

エルザが一つの実をまたつぶし、直ぐにジノの口へと流し込み。

最初と違い、少し回復した様子のジノは今度はむせずに飲み込めた。


僕はもう一つの実をエルザの手ににぎらせ、直ぐにまたジノの口元に運ぼうとする彼女の手を止め。


「まっちぇ、あとのみあここれしゅ」待って、後の実はここです。


口ではなく患部を指さす僕は、消毒液をかけられた後に布で覆われていた腕があった場所をさしている。

まだ止血が十分でないその場所は、すでに血にそまっていて。


「傷に直接つけろっていいたいの?悪いけど今は余裕がないから」


僕の助言を聞き入れないエルザは、この万病薬になる木の実の価値を知っていたけれど効能に詳しい知識があるわけではないようだ。

切羽詰まった状況なのもあるから、僕が進めるやり方を聞き入れる耳を持っていない。


なんと伝えよう、と。僕は考えた。

森で木の実を採取できた僕は、色んな検証をしてきている。

僕がケガをすることはすくなかったから、生きていくために毎日捕まえていた魚を相手にだったけれど。

好奇心の強い僕は、致命傷を受けているとき木の実を何処から体内に入れることが命をつなぐために望ましいのか。

傷を負ったときの再生力を望むなら何処なのか。

量はどのくらい必要か。

沢山沢山僕の知識欲で検証をしてきている。



だけど、今必要なのはそれを伝える語彙力で。



「この子供のやり方を俺も進める」


意外なところから助け舟はでた。

それまで静かに様子を見ていた黒騎士が僕の意見を後押ししてくれるんだから。

僕だけでなく、エルザもウィガロも驚いて彼をみた。


「強制はしないがな」


三人から見られ、言葉を弱めた黒騎士。

なんだか意外とへたれ?


黒騎士の威厳を怪しむ僕とは違い、ジノの救出で彼に対する信頼を深めていたらしいエルザは。

僕の時には疑った考えをあっさり覆し、ジノの患部の布をとり木の実の汁をあてた。


えぇぇ。

少しだけショックを受ける僕だけど。

今はジノの容体が最優先で。

心の中でだけ不満をさけぶ。


んんんんん!幼児ボディは威厳がたりない


「ぐっ」っとうめき声があがるジノ。

まだまだ傷は痛々しい。

僕は最後の一粒もエルザに差し出すが、彼女は僕の手を押し返し実を受け取らなかった。


「もう十分だよ。ありがとね」


これだけ重症だから、僕の検証ではじゃんじゃか実の汁あびせるべきなんだけれど。

人里の彼女達にとって森からの恵みはたいへんたいへん貴重なものだから。

受け取ることを躊躇してしまうのかもしれない。


僕は、「あい」と素直に答えて実をしまう、と見せかけて。

エルザがジノの肩を布で覆う前に「じょー」と最後の一個を小さなおててで絞ってギュッとした。


「「あ」」


エルザとウィガロの声が僕の処置に間抜けに音を添える。


うんうん。あとでまた木の実こっそり持ってこようかな?

口に出してはいわないけれど。

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