拠点と同居人?
ノノに手を引かれる僕は、ぐんぐんぐんぐん引っ張られ気付けば教会の目の前に。
とっくに廃協会になったこの建物は、ノノ達のねぐらにしてる大切な場所。
当然のように僕を連れて入ろうとするノノに、僕は最後の抵抗を試みる。
「にょにょ、ぼくあおうちがべちゅにありゅ」ノノ、僕はお家が別にある。
ノノはうん、と頷きながら手は離さず。
「知ってる。ティオははぐれだったんでしょ。
ロッツォ兄達に認められたんだから、今日からここに入っていいの」
ここが最適解の認識で僕を連れ込もうとしているノノに、僕はしっかりしっかり踏ん張りながら答えた。
「はいりゃない。ぼくおうちがありゅから」入らない。僕お家があるから。
頑な僕にノノは目を細める。
それでも僕を引っ張るノノ。動かない僕。引っ張るノノ。動かない僕。
おれない僕の態度に、とうとうノノは「ふんっ」と強気にそっぽ向き、廃協会の中に入って行った。
屋根も壁もあるここは、家のない彼らにとっての命の宿。
ロカの夜はとても冷えるし、治安もぐんと悪くなるから、身を隠せる建物に入れる事はとても幸運なもので。
断る僕の方が不正解の選択。普通なら。
僕はとてとて歩くと、協会から少し離れた場所に子供が入れるだけの小さな穴がある事を見つけていたから真っ直ぐにそこを目指す。
迷いなく歩いたその先に、目当ての小さな穴を見つけ。
そこに潜り込んだ。
すると、中には先客のわんこが1匹。
「バウッ」と吠えるわんこに、ぼくは少しだけ肩の狼の力を意識した。
すると怯んだわんこが「ひゃいん」と憐れなほど怯えながら後ずさる。
狭い穴の中で目一杯に。
そうなると、自然と生まれる大きなスペース。
僕は遠慮なくそこに、とすんと腰をおろし。
うんいいスペース広い広い。
ありがとうね!お邪魔します。
わんこからはかけらも歓迎されていないだろうけど、僕は遠慮なく居座った。
急に消えた強者の圧力に戸惑うもふもふわんこ。
一体こいつは何なのだろうか、と僕を警戒しているが。
構わずにその身体を、小さなおててでぐいぐいぐいぐい抱き寄せて、もふもふのぬくぬくに触れながら。
僕はホゥと一息。
あったかい。
寝床を確保し、ぬくぬくつつまれ気持ちも落ち着いてきた僕。
心も身体も一息付けていい感じ。
落ち着けた僕は目を閉じる。
人里デビューで、一日中走り回って疲れた身体を癒す睡眠も恋しいけれど、僕はジノの事が気がかりだったから。
怪我を負い、独房にいれられているジノ。
ジノのいる貴族の屋敷に向かった黒騎士とロッツォ。
そして、彼らの報告を待つエルザとウィガロと。
僕は思い出す。
ノノと街で休んだ時に視界を借りた小さな小鳥の姿を。
あの子の目を借りて、空を飛び。
ジノの様子を探りたい。
鳥の視界で……暗っっ。
目を開けた僕は、拠点に決めた穴の中から這い出て外に出た。
辺りはじんわり薄暗く、小鳥の目からの探索はすっかり難しい時間。
しまった。こんな事ならもう少し明るいうちに覗いておくんだった、と。後悔しても仕方がない。
だけど、僕はジノの事が気になっている。
気になっている以上、あきらめきれない。
ウィガロの話では、彼ははぐれを助けようとして目をつけられ怪我まで負わされ連れて行かれているという。
理不尽はロカの街の中にたくさんある事だけど、それでも気になる理不尽な結末。
行こう。
鳥に頼れなくても。僕は自分の足で貴族の屋敷の方に向かっていって確かめたいと思った。
僕が行けばジノにおきた理不尽を少しだけでも良く出来るような自信がある。少しだけ。
もちろん、黒騎士はこわいけれど。
僕のお節介と好奇心が背中をぐいぐい押してくる。
行こう。
歩き出した僕の隣には、さっき同居が決まったばかりの毛むくじゃらが。
「わふっ」といって伏せをして僕に何かを訴えている。
敵意と警戒はどこにいったのか?僕に順応さをアピールし始めたもふもふは、小さな僕よりずっと逞しい両手両足と、僕くらいしっかり乗せてしまえるような背中をもっている。
乗ってみたいなぁ。
背中に跨ってもいいのだろうか。
僕がおそるおそる毛むくじゃらに跨ると、わんこは四本の足を支えにしっかりと地面に立ち上がり。
軽快にとんとんとんとん進む足取り。
すごくいい!!心地よくて頼もしい。
すごい!
僕の感激に答える様に、僕を乗せたわんこは走り出した。
僕が望んでいる方向と一致した方に。
何でだろうか。
まるで僕の気持ちを汲み取ってくれているみたいな不思議な感覚。
鳥に視界を借りているときとは別で、僕の意思ではないわんこの意思が確かに感じられる。
色々と試してみたい事が思い浮かぶ。
僕が肩の狼を意識してからわんこに何か影響があったのか。
わんこは何処まで僕の気持ちにリンクしているのか。
他のわんこはどうだろうか。
僕のスーパー身体強化の影響はわんこに試すことができるのか。
沢山の好奇心がどんどん湧き上がり、試してみたい。追求してみたい気持ちがどんどんどんどん高まっていく。
だけど、僕の頭に今日がジノの処刑の日になるのではないかといったウィガロの言葉がよみがえる。
今は急ごう。
僕は人よりたくさんの事が出来るみたいだから。
僕が行くことできっと何かを出来ると自信をもっている。
僕は小さなおててでギュッとしっかりワンコの背に捕まった。
ぐんぐん走るわんこ。
途中には廃協会がみえ、入口には心配そうに辺りを見回すノノが……ひえ、目があった。
僕は見なかったことにして、わんこの歩みに身を任せたまま背中の毛の中に顔を埋める。
居ません居ません僕は居ません。
ノノはもう寝ててくださいと思いながら。