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ジノの濡れ衣

商業地区まで僕を連れ出したエルザは、人通りがまばらにある噴水のそばの石に僕とノノを座らせた。

街はいつもの賑わいを見せながら、ゆっくりと傾いていく太陽が日暮れが近いことを告げている。


「お!エルザ!」


「あたしはもう一度いってくるからあんた達は帰りな」ティオのこと頼んだよと、ノノに言いながらエルザが踵を返した時だった。

軽薄そうな薄銀の髪色を持つ優男がかけてくる。


「ウィガロかい。ちょうどいい時にきたね」


「ウィガロ兄」と良いノノも少し嬉しそうにホッとした様子。

ウィガロはエルザの傍までやってくると、声を潜めて。


「聞いたか?ジノの事。アイツ今ヘマやってとっ捕まっちまってんだ。

このままだと処刑されちまう」


処刑の言葉に、ノノが「ひっ」と小さな悲鳴をあげた。


「処刑なんて穏やかじゃないね。あいつ何やってとっとかまったんだい」


険しい顔のエルザ。

ウィガロは人目を避けながら僕らを小道に押し込んだ。


「三日前、パン屋の前で家紋入りの馬車が倒れたことは知っているか?」


頷くエルザ。

初耳な僕と、同じ反応のノノは静かに二人の会話を聞きいている。


「その馬車にジノが気にかけてやってたはぐれが一人ひかれちまって。そこにたまたま目撃したらしいジノが駆け寄ってる間に、金物屋の親父がこれも偶然タイミング悪く商品ぶちまけちまって。

んで、驚いた馬が興奮して暴れて、馬車は転げちまう」


ウィガロの話を聞きながら、エルザの目つきがかわっていく。


「そんで、性根の悪い親父は金物ぶちまけたことを馬車睨みつけてたジノのせいだと騒ぎ立て、ジノの奴はぼこぼこに殴られて連れてかれたらしい。はぐれも助からなかったようだな」


「なんだい、それ」


エルザの声に怒りが込められていた。

ノノは分かりやすく怒りで震えている。

僕は二人ほど明確な怒りを感じなかったけれど、とてもとても気分が悪くなった。





「あそこの親父感じ悪いよ。私届け物を持って行った時無視されたことある」


隠せない怒りで身を震わせるノノの頭に、ウィガロがポンポンと手をのせた。


「気にすんな、あそこは昔から俺らの事を人間だとおもってねぇんだよ」




ギルドの緑の依頼書のように善意の施しもわずかにあるけれど。

無力な子供達はいつだって一番の弱者。

コミュニティーをつくり、集団になっても。

悪意と、偽善と、善意にさらされ、施しを飲み込んで必死にもがいていきている。



「なら、ゆっくり待ってるとジノは殺されちまうね」


エルザの言葉にウィガロが頷く。


「その通り。もう連れてかれてから今日で三日だ。今夜あたりに殺されちまう」


優男のウィガロが握りしめたこぶしに血管が浮き出ている。

彼もまたジノの境遇に怒りを感じていた。


「一緒に襲撃しちまおうかって、言いたいとこだけど。……朗報だよウィガロ。

黒騎士がジノのところにロッツォを連れて向かってる」


エルザの言葉にウィガロはあっけにとられて口をぽかんと間抜けにひらいた。


「アイツはともかく、ロッツォは見つけたジノを置いてこれる子じゃないし、黒騎士はロッツォの保護をあたしに誓ってる」


「なんだよそれ!どんなミラクルだよ」


貴族と平民の間には明確な壁がある。

もしジノを取り戻しにエルザ達が貴族の屋敷に忍び込んでいたとしたら、彼女達がロカの街に居続けることはできなかっただろう。


お尋ね者にされ、逃げる様に別の街を探し拠点にするしかない。

その街に追手がかかれば、さらに別の街へ、と。

最悪、国を出ていかなければ生活が出来なくなってしまう。

それだけのリスクを問われる状況だったのに、帝国唯一にして最強の皇帝の右腕である黒騎士がそのリスクを代わってくれたというのだから。

彼ほどの男になれば、ロカの街の貴族の邸宅の出入りなんて何の障害もない事だろう。


あるいは、捕らわれた罪人を引き渡すことになったとしても。




ウィガロは安堵しながら、次の瞬間には真剣にエルザに向きなおった。

「でも、ただじゃないんだろう?」という彼に、エルザは頷く。


「情報が欲しいといってたね。黒騎士が欲しがる情報をアタシらがもってるかは分からないけど」




エルザはノノと僕を残して、ウィガロと二人来た道を戻っていった。

二人が貴族の邸宅の方へと向かったあと、ノノは僕に向き直り。


「行こうティオ。そろそろ夜になっちゃう」


ゆっくりゆっくり、日が傾いていき、いつの間にか空は赤くなっていた。

ロカの街はそれなりの人口があって、夜は昼の姿よりぐんと治安が悪くなる。

決して治安がいいとは言えない場所をねぐらにしている彼女達だから。夜に動くことの危険性をよく理解しているようだった。




僕を当然のように自分たちの寝床に連れて帰ろうとしているノノに、僕は何て言葉を伝えようかうんうん悩みながら手をひかれていった。

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