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黒騎士モーベン・カネラ

僕とノノがそこに着いたときには、数人の子供たちの姿があった。


彼らの臨時リーダーになったロッツォも居て、彼は肩で息を整えるのに必死な様子。




僕とノノの姿を見たエルザが意外そうな顔をしている。


彼女以外は小さな僕らの事に気をやる余裕もないくらいだ。




見かけによらず気の強いノノが、周囲を窺いながら静かに様子を見ている。


ロッツォ程呼吸が乱れていない彼女だけど、彼女が黙っているのは息が整わないからではない。


周りの年長者の様子を見て、自分が騒ぐべき時ではないと悟っているのだ。


賢い。




機転の良さや賢さは彼らにとっても武器になる。


子供だけとはいえ集団でコミュニティーをつくっている彼等にとって、聡い事は生きていくための大切な手段。


集団で輪を乱す者になると、一目措かれる存在になるか、あるいは疎外され【はぐれ】にされてしまうか。




この世は決して甘い世界ではない。








「間違いねぇこれはジノの兄貴がかぶってたやつだ」




息を乱したまま、エルザから帽子を受け取るロッツォの姿。


僕の隣でノノの肩がはねた。




「やっぱりそうかい。困ったねぇ」




エルザは難しい顔をして、貴族の邸宅の方へと視線を送る。


ロッツォ達もつられてそっちに目を向ける。




深刻な顔で話し出すエルザと年長者たち。




僕は耳をすまして彼らの音を拾い始めていたが、つんつんと背中を突かれて隣のノノを見た。




「ねぇ、まっすぐここにきたよね。どうして此処が分かったの?」




ノノが小声で僕に問う。




「どしてかにゃ」どうしてかな




僕は惚けてノノから視線をそらし、またエルザ達を見た。



「ジノ兄の帽子が見つかったんだよね?ロッツォ兄達どうしたのかな?」




ノノの小声が聞こえてくる。


僕は年長者達の様子を見ていた。






空気は重い。








全員黙って、貴族の邸宅がある方向を見ている。


その時だった。






「ロカの孤児達か?気をつけろ今お前たちは此処に来ない方がいい」






気配なくいつの間にか傍に立っていた長身の黒騎士。


彼を見た瞬間、僕の心臓はドクンと大きな音を立てた。


見覚えがある。


彼の事を僕は知っている……あの時の黒い騎士。




背中を冷たい汗が落ちていく。


強者を前にして、逃げたい逃げたい逃げなきゃ逃げなきゃと僕を強烈な恐怖感が支配してくる。




僕は震えだしたようで、隣にいたノノは小さな身体で小さな僕の身体を抱きしめてくる。


テディーベアのぬいぐるみにされたようにノノに抱きつかれながら、その小さなか弱いぬくもりは信じられないくらい僕には暖かかった。




「あんた……いつから居たんだい」




警戒心をむき出しにしながら身構えたエルザが、黒騎士に油断なく構え。


彼女も黒騎士の存在に気づけなかったようで、酷く驚いた様子が伝わってくる。


男に向き直った彼女は、後ろ手で「行け!」と子供達に指示を送る。


ロッツォが頷いたのが分かった。




じわり、じわりとエルザと男から距離を取り始める子供達。


動けない僕はノノに引っ張られながら。




「……警戒しなくていい。仲間を助けに来たんだろうが、今は危ないと忠告しただけだ」




「あんた……誰だい」




「っ……仲間って!ジノの兄貴の事か!?」




エルザの問いかけと同時に、ロッツォが喰い気味に問いかける。


逃げるために構えていた彼は、それを忘れた様子で男に対峙するエルザの隣に並んだ。




「ロッツォ……」




エルザは目を細めるが、ロッツォに退く様子はなく。




「なぁ!!どんな奴だった!?そいつがこの青い帽子の持ち主ならジノの兄貴で間違いねえ!教えてくれ!あんた何を知ってんだ?」




ロッツォは熱くなっている。


冷静な姿を保っていた彼が取り乱し黒騎士に詰め寄る様子を、僕は呆然とみていた。




黒騎士は静かな目でロッツォを見ながら。




「多分そのジノで間違いないだろう。彼は大怪我を負って収監されている。何かの悪事に手をそめていたと聞いたが」




大怪我負っていると聞いた子供達が息をのむ。




「……っなんだよそれ!兄貴捕まってんのか?悪事って、いったいなんの悪事だよ!!」




「知っている事はこれだけだ」




「くっそぉ!!!」




貴族の邸宅をにらみつけ、走りだそうとしたロッツォ。


間一髪のところでエルザが彼の肩をつかんだ。




「待ちな!何頭に血ぃのぼらせてんだい!!冷静になりなっ」




ロッツォは呼吸荒く、目を血走らせている。


エルザはロッツォを抑えながら、黒騎士を振り返った。


精悍な長身の男は、真っ黒い髪を長髪にした真っ黒い服の、真っ黒いマントの。




「あんた……黒騎士モーベン・カネラかい?」




エルザの問いに、黒騎士はこくりと頷いた。

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