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狼以外で僕を守ってくれた人

ギルドは酒場と一体になった構造で、酒を片手に肩を落とす僕の姿をつまみに笑っている彼らの間を、僕はとぼとぼとぼとぼ歩いていく。

受付が閉まる原因を作ってしまった罪悪感がある僕は全身でションボリを背負って歩いた。


幸い、受付が閉まることで苛立ちをぶつけてくる人間はいないようで。

僕はギルドの出口までまっすぐ歩いていくことができた。


扉をくぐり歩き出す僕の背にむけられている視線がある。


ずっと嫌な感じでみられている視線は感じていたから、今もある視線があの数人の誰からのものなのか僕には見えない。

人気のない場所で対処しようと、子供らしくない考え方でとてとてあるいていく僕の後ろから悲鳴が上がったのは、ギルドを出てすぐのことだった。


「イテテテテテテッ放してくれ!」


僕はまだ何も手を出していない。


びっくりして振り向いた僕の目の前で、僕を掲示板の前で持ち上げてくれた女性エルザが男を締め上げている。

男の装いは粗暴な雰囲気のままの品がなく、雑に処理した動物の角を至る所に装飾した防具が印象的だ。

その彼が、彼とは真逆の清潔感を感じるエルザに締め上げられている。


巨漢を背中から反り上げる様に腕を巻き付け締め上げるエルザの鍛えられた腕は、たくましい男の腕の半分ほどしかない。

それでも力量には大きな差があるらしく。

酒を十分に呑んだ男の赤ら顔が苦痛に歪んでいる。

苦痛に喘ぎ逃げ出そうともがくその姿からは、僕を品定めしてずっと見ていた気持ち悪い男の姿を想像できないくらいに。


「ほら、僕は行きな!この肉ダルマはお姉さんがしつけといてあげる。

アンタは懲りないねぇ。まぁた悪さする気だね」


しっしっと、やっぱり悪だくみから助けてくれたらしいエルザは僕を追い払う。

僕は指示には従わず、きょとんと立ったまま成り行きを見ることにした。


「悪かった!もうしねぇから!!見逃してくれ」


「そういってどうせまたするんだろ。アンタは」


去る様子がない僕からあっさり視線をそらしたエルザは、体勢をかえもう一度大男を締め上げる。

情けない悲鳴を上げる大男に、酒を片手にわらわら大喜びでギルドから見物人が近づいていく。


ひゅー!

やっちまえ!いけ!!

ギャハハハハ!ガウロンのやろう白目ふいてら。

腹いてぇ!!ざまぁ。

お前注意受けんの何度目だよ?そろそろ登録抹消されて出禁になんぞ!分かってんのか?

いい女は何やってもいい女だぜ。


エルザは野次馬を流し見ると、パッと技を外してすっかりのびてしまった大男ガウロンを傍の男に投げつけた。


「気分わるいからアタシから見えないとこに置いてきて」


エルザの無茶ぶりに、男は「へいへい」と言いながらやれやれとばかりに素直にガウロンを支えて連れていく。

あっという間の捕獲げきだった。

荒々しくてスマートかつ迅速な。


チラリと一瞬僕をみて、直ぐにギルドの奥に戻ろうとするエルザ。

僕はとてとて動いて、スカートのすそをギュッとひいた。

エルザは振り向かないまま。


「次は此処を教えてくれた奴と一緒にくるんだね。僕はまだ小さいんだから」


お節介な助言までくれる彼女はかなり面倒見がいいようだ。

僕はぴょんと跳ねて、背伸びしながら後ろ向きの彼女の手にお礼をねじこむ。


手を開こうとした彼女に、また服の端をひっぱってそれを止めながら。


「ありあと!またきあしゅ」ありがと!また来ます


小さな僕から特別スマイルのおまけもつけてサービスしておきました。


用はすんだ!

僕は再びとてとてとてとて、ギルドに背を向け歩きだす。





とてとてとんとこ進む僕の後には、嫌な目の追跡者はおいかけてこなくなった。

そのかわり。


「ねぇ、ちょっといい?」


「あい」はい


ギルドから数件離れた街の中で僕は呼び止められた。

僕の後ろには先程破落戸から僕を守ってくれた長身スレンダーマッチョエルザの姿。


「僕はこれの価値が分かってアタシにくれたの?」


エルザの手の中には、僕が彼女に渡したお礼の木の実がコロンとはいっている。


「あい!たすけてくれたおれいでしゅ」はい!助けてくれたお礼です


「ふぅん……でも、これ簡単に人に渡すものじゃないのよ。僕がもってなさい」


僕に木の実を返そうとするエルザ。

彼女は好みの価値がわかっているみたい。

僕は、まだ僕の手の中にあった緑の依頼書を彼女の目の前まで掲げるとその紙のしたに書かれた小さな文字をトントン指で示した。




追記、以下の木の実を持ち込んだものには報酬として金3000枚を出す。

【察し絵】




「ここにかいてあるきのみでしゅ!おねえしゃんがもっていってくだしゃい」此処に書いてある木の実です。お姉さんが持って行って下さい。


「分かっててくれたのかい。……ありがとね遠慮なく貰っちまうよ。こんなにお礼貰っちまったらお釣りができちまうね」


僕の言葉にエルザは上機嫌で笑っている。

初対面の小さな子をさり気なく見守る優しさと、価値が分かっていなそうな子供からそれを搾取しようとしない誠実さ。

素敵な人だな彼女は。

街にきてみて改めて感じた彼女の人柄に、僕はもう少しだけお世話になっていたい欲がでてきた。

もう少し、子供にやさしい彼女に甘えてみよう。

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