先ずはお金稼ぎから
「ぼくのほほしゃみつけあかりゃ、ぼくあいくね!」
「まって!1人で大丈夫なの?」
僕の保護者みつけたから、僕は行くね!
と、人の良いマデラン親子と別れた僕は1人街の喧騒の中に身を投げた。
去り際マデラン母が粘り強く付き添いを言っていたが、僕はそれを断ると振り切る気持ちで人混みの中に飛び込んだのだ。
優しいマデランの母の事だから、きっと小さい僕が保護者と会うまで側で見守るつもりがあったのかもしれない。
だけど、僕に保護者は居ないのだ。
重ねた嘘と、今まで内緒で覗き見ていた罪悪感が胸を掠めた。
良い人を騙す時ほど痛くなる胸の痛みは他に無い。
僕は鳥の視界から何度も何度も見てきた、初めてだけど慣れ切った街を確信ある足取りで歩いて行く。
僕が消えたあと、「名前ききそびれちゃったわね」と、マデラン親子が残念そうに話していた事を僕は知らない。
でもそれで良かった。
聞かれていても、僕は答えられなかっただろうから。
僕には名前がない。
僕の名前はわからない。
なんでも請け負います
【ギルド】ロカ支部
そう書きこままれた大きな看板の後ろには、二階建ての大きな建物が建っている。
ギルドに近づく程、顔ぶれが明らかに荒っぽい無骨な者たちにかわっていく。
ここは、街の外に出て獣を狩ったり、他の街に行く商人を護衛する人間に仕事を施錠する場所。
冒険者ギルドとよばれている。
荒くた風貌の冒険者と呼ばれる人達の目から小さな僕が居る事が奇妙に見えた様で。
沢山の視線が僕に向けられているのを感じる。
本当は目立ちたくないし、こんなに物騒な場所は避けておきたい。
でも、僕にはここに足を運んだ目的があった。
目的のものがここにある。
んしょんしょんしょ
小さな身体でぐんぐん進み、確信を持った足取りで僕は仕事の依頼が貼り付けられた雑多な掲示板の前まで進んでいく。
沢山ある紙の依頼書のなかで、僕が欲しいものは一枚だけ。
みつけた。
が、高い。
沢山の視線が向けられている今の僕が垂直壁登りを披露してしまうと、異質さに更なる悪目立ちをしてしまい最悪の自体を起こしかねない。
僕はくるりと背後を振り返ると、近くのカウンターに寄りかかる身綺麗な優しそうに見える女性に狙いを定めた。
「おねえしゃん、ちょっといいれすか?」
「なぁに僕?」
カールした茶髪を無造作に横に流した女性は、真っ赤な唇を持ち上げて小さな僕を見下ろした。
「おーいナンパか?エルザ落とすにゃ坊主にゃ100年はえーよぉ」
「ママのオッパイ吸い終わってからここにきなぁギャハハハ」
とたんに騒がしくなりギルドに不似合いな僕を野次る喧騒を無視して。
僕はカウンターに寄りかかったままのエルザの服をぐいぐいひっぱってアピールした。
「おねあいがありましゅ。あのかみをとっれくえましゅか」
「舌ったらずな坊やね。何言ってるかわかんないわよ」
悪態をつきながらも、僕の要求には答えてくれて。
小さな僕では届かない位置にあった紙をあっさりと剥がして彼女は手渡してくれた。
「ありあと、ごじゃいましゅ」
「10年たったらお礼寄越しなよ」
ピューと野次る口笛に沸くギルド。
エルザに唾つけられたのか羨ましい坊主だなぁ。
青田買いには青過ぎる。
赤ちゃんはねんねの時間だろぉ?
生意気な坊主にゃお仕置きが必要だなぁ
よしなさいよアンタあんなジャリガキ虐めて恥ずかしくないの?
ここは赤ん坊が来る場じゃねぇぞ。ママんとこ帰ってオッパイ吸ってねんねしろ
野次で溢れた空間で僕はため息をこぼした。
冒険者たちにとって僕の動きは暇つぶしの余興になっているらしかった。
思ったよりずっとずっと目立ってしまったけれど、僕の持つ紙が緑色をしていることに気づくと彼らは直ぐに僕から興味をなくしていった。
緑色の依頼書は薬草採集。
僕ほど小さな子供が来る機会は少なくても、街の子供が小遣い稼ぎに手を出す事もある低額で単純な消化依頼。
実際僕も鳥の視界で何度か子供が緑の紙を持つ姿を見ている。