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File5 きみのこともっともっともーっと知りたいっていうセリフ

 トスッ。

 ケイハンの腕はビーシュの首へまっすぐ伸びた。そして小さな刃物を突き立て、サッと刃を入れた。太い血管はその弾力を見せつける前に、あっさり切れてしまった。

「ん゛っ!!」

 ケイハンがビーシュの口元に手を伸ばし、そして強く抑えた。喉元からドクドクと吹き出す血に茶色い腕が赤くなる。

「暴れちゃダメだよビーシュ。大人しくしないとっ」

 ケイハンが少し強く抑えようとした。

 なにか固いものが砕ける音がした。

「ァ゛……ァ゛!!!」

 四肢が大きくのたうち回った。ケイハンの顔に焦りはなかった。ビーシュにまともな意識はもうなかった。顔が青くなっていくのが、心臓が弱くなっていくのが伝わってくる。

 ケイハンはそんなことはどうでも良くて、ただ本心で、じっとして欲しかった。

「……そっか。そういえば地球って魂の保存技術が確立されていたんだっけ。資料の内容全部は覚えてるわけないし怪しいなぁ……」

 ケイハンは思考をめぐらせた。今ここでビーシュを殺しても意味がないかもしれない。でもここまでしてしまった以上、逃がすわけにもいかない。失敗してしまった。このままでは安全なところに逃げられてしまう。保存装置を破壊する。この家の中でそれらしき機械はなかった。見つけた機械はタイミングを伺って必ず用途を聞き出した。その中に魂の保存装置はなかった……私が行ったことのない場所にそれはあるはず。そうじゃなきゃ、脆い地球人のくせに随分命を軽く見ていたことに説明がつかない。洞窟の中での戦闘……あの時ビーシュはためらいがないように見えた。

「……ここに来る時に乗っていた船」

 そうだ、間違いない。そもそもこの星の調査が不十分だというのに、なんの対策もなく降り立つとは考えにくい。船の中の装置で魂を保存し、それから着陸したんだ。

 ビーシュは虫の息だった。なぜ生きているのだろう。決して浅い傷じゃない。私はすっかり安心して殺すつもりで首を刺した。

「ううん、考えてる暇なんてないよね。ここから近い、まだ間に合う。保存された魂が死に、母星で蘇生される約十五分の間に壊すことなんて大したことない」

 ちらりとビーシュを見た。青白い顔。光のない目。鮮血に溢れた全身は力なくぐったりとしている。


 死んだ。


 瞬間、ケイハンは地面を蹴って壁を貫き、ビーシュの船を目指して駆け出した。とても目で追えない速度。立ち塞がる畑の柵やら倉やらが次々となぎ倒され、木っ端微塵に砕けていく。ケイハンは狩りをしている感覚だった。弱い獲物を追いかける快感……ましてや今回の獲物は動くことがない。

 船が見えた。走り出してまだ一秒も経っていなかった。ケイハンはそのまま船に体当たりをした。しかし宇宙船はビクともしなかった。

「……え?」

 へこんですらいない。想定外だ。この速度でぶつかっても壊れないなんて。あの爆弾……私が自分の船に使ったあの爆弾を使おう。あれで跡形もなくしてやる。幸い隠し持っていた分がある。遠慮はいらない、思いっきり使ってやろう。

「;@=7+@」

 原子の隙間に入り込み、小さな町ひとつなら片手間で破壊できる小型の爆弾を持っているだけ全部使った。周りの木々が吹き飛ぶほどの大爆発。濃い煙の中からは、とうとうバラバラになった船の無残な姿が出てきた。

「やった、どうなる事かと思ったけどさすがは我が星の爆弾!宇宙一とは言わないけれど、やっぱり今の時代で略奪主義星(プランダスタ)やるにはこれぐらい当然どころか、あまいレベルよね」

 船の中心部にそれらしき機械を見つけた。素早く鋭利な腕を伸ばす。これで安心できる。

 さくっ

 金属でできたものとは思えない、妙な音。ただ機能は停止しているらしい。それならば問題はない。時間は余裕で間にあった。

「ケイハン、対象を殺しました。後のことはお任せします」

 任務は終わった。偶然を装って都合のいい適当な地球人と接触、自身に好意を持たせるなどして彼らの情報を入手し母星に送信する。そして作戦決行の今日という日、接触した対象を殺害し、後は上に任せる……。

 私は使い捨てのコマなんだ。下っ端にまともな一生を遅れるという希望なんてものは与えられない。個々に与えられた役割が終了し次第、消される。逃げられない。私はどうしてももうすぐ死んでしまう。でもそういうものなんだからしょうがない。しょうがないんだ……。

 ビーシュとの日々が突如フラッシュバックした。彼女は、だからどうしたと思った。ビーシュのことなんてどうでもいい。ただちょうどいい所に一人でいた地球人。違う人だったとして、全く問題はなかった。あいつがどうなったところで……。

 ケイハンの目から涙が少し、流れた。ケイハンは驚いた。自分に感情から来る涙があるとは思えなかったからだ。この涙は、ゴミを取り除くためなんかの機械的な身体の機能じゃない。止まれ……そう思う度に溢れ出てくる。

「……なんなの……」

 膝からガクッと崩れ落ちた。透明な水は乾いた肌を濡らしていく。止まらない、止まらない。止まらない……。

 他者を裏切ることなど、殺害することなど、ケイハンの星では軍隊などの組織を除けばむしろ褒められる行為。ありふれた、日常の光景。そうして星を搾り取りすぎてしまったから、他の星から略奪する道を選んだほどだ。ついさっきまで仲の良かった親友が相手でも、一度その関係が崩れたら数人同士による小規模の戦争が勃発するほどだ。

 ビーシュに対して特別な感情なんてなかったはず。だとすればこの涙は“掃除”を恐れての物?私が?

 任務が完了したら地球に母船が複数の、様々な宇宙船を連れて地球に出発する予定だという。そしてその際に、一生の役割を終えた私のような星人は掃除される。存在価値がないからだ。……それが怖いの?

「なんで?どうして?これは生まれたその瞬間から決まっていたこと!今日この日まで確実に任務を完了させて我が星のために尽くしてそして死ぬ!殺される!そのために生きてきた!当たり前の事じゃない!…………あっ……」

 ケイハンの頭上に影がかかった。大きな影は、徐々にケイハンに近づいてくる。十メートル、十五メートルと近づく度に、その姿が鮮明になっていく。鋭利で無機質な灰色の殺意が近づいてくる。赤色の血がぽとっと一滴落ちた。鋭い先端が、見上げるケイハンの目に触れようとしたその瞬間、ケイハンは時が止まったように感じた。

 脳裏をよぎったのは、あの男の顔だった。

(こんな瞬間にまで……ありえないのに)

 ケイハンが今までのその考えに根拠がないことに気がつく前に、瞬間は終わり、そのまま身体は貫かれた。遅れて迫ってきた大量の小さな刃が、ケイハンだったものを細かく、四方八方から切り刻む。僅か二秒。後には血溜まりと骨粉だけが残った。


 これでビーシュとケイハンの物語は終了……続くことはない。強いて語るとするならば、ビーシュはケイハンが真っ当な宇宙人だとは思っていなかった、それでも自分はケイハンが好きになった。だから最期の最後までどんでん返しを期待して生き続けた……という設定程度。あとは……互いに、「きみのこともっと知りたい」の一言を言うだけで、変わるものがあったかもしれないというだけである。

 おわり。

こんにちは!はとです!

久し……ぶり……_( _˟꒳˟ )_

途中すっごい省略されたような気もするけど(予定通りではあった)これにて、本当に完結となります!

ガチな知識なんてまったくないので引っかかる点はあったかもしれませんが、それでもここまで読んでいただけたことがとても嬉しいです。(創作のそれっぽい言葉や難しそうな言い回しで誤魔化してきたぜ_( _´ω`)_フゥ)

ちなみに全話からだいたい2ヶ月経ってるんですよねこれ投稿するまで。遅れてしまいすみませんでした

m(_ _)m本当に

ちなみになんですけど、ビーシュとケイハンの名前の由来、ですね。これ実は「星 悪魔」で調べて出てきた「アルゴル」っていう星に由来してるんです。そこまで深い意味はありません、まぁバッドエンドの伏線っていうと綺麗かもしれないですね。

ということで!えー本当に、最後まで読んでいただきありがとうございました!

ご意見ご感想お待ちしております!

それではまた!( *¯ ꒳¯*)ノばいばーい♪

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