File2 お互いのことを
宇宙用持ち運び式簡易シェルター。その名の通り、ぼくのような移住したての人間が使う簡単なシェルターだ。異星人によってもたらされたADC(Another Dimension Connection)の技術を利用して発明されたもので、永住や極端な環境は想定されていないものの、最低限の生活には問題のないシェルターになっている。地球で開発されたこれは既に宇宙各主要星には広まっており、多分inv星人の持っていたものも同じやつだろう。それが破壊された以上、安全なシェルターとは言い難いけど……さすがになにもないよりはマシなんじゃないかな。
ぼくはポケットから手のひらくらいの大きさのボールを取り出すと、地面に置いて赤いボタンを押した。みるみるうちに地面に半分ほど埋まりながらそれは巨大化し、二分後にはドーム状のシェルターができあがった。壁に線が浮かび上がり、次第にドアの形状に変化する。ぼくはそのドアのへこみに指をかけると、認証をして開けた。
「さ、入って。まだなんにもないけどね」
シェルターの中はまさに殺風景だった。別になにかを入れた状態で小さくしてもADCのおかげで問題はないんだけど……もしなにか困ったら地球に戻れば良いかなって。二、三時間くらい運転すれば良い距離だし……うん、正直に言うと用意するのが面倒だったんだ。
「椅子、机、コンピューター基本一式……それといくつかの紙の箱……だけなの?」
「まぁね。それでも生活はできるはずだよ」
ぼくはそう言ってドアを閉じると、真ん中にある椅子に座った。inv星人も、斜め前にあるもうひとつの椅子に座った。
「あんなことがあったばかりだけど、気にしないでね。私はあれくらいはあるだろうなーって、少しは覚悟してたんだから」
「そっか……それじゃあさ、少しこの星とか、ぼくたち自身のことについて話さない?この後なにをするかも決めたいし」
「……!そうね。それじゃあ、あなたの星ってどんなところ?」
「ぼくの星は地球。天の川銀河の端の方にある太陽系第三惑星で、レベルは2相当。一つの国によって統一された、平和な星だよ」
「へぇ〜平和な……。資源とか自然とかはどう?」
「うーん、資源は太陽から直接吸収できるしほかの星とも貿易してるからいっぱいあるだろうけど、自然かぁ……植物だったらほとんどないよ」
「そうなんだ」
「inv星はどう?どんな星?」
ぼくがそう聞くとinv星人は少し黙ってから話し出した。
「私の星はxxxx銀河の中央に位置しているの」
ん?今何銀河って?上手く聞き取れなかった……。
「一つの国によって統治されてるわけじゃないけど、でも平和な星だよ!確か地球とは、遠いのもあって貿易していなかったんじゃないかな」
「そっか、invなんて聞いたことがない星だったけど、そもそも地球と関わりがなかったんだ」
inv星人はコクンと小さくうなずいた。
その時。外からなにか、音が聞こえた。
「なんの音だろう……なんだ雨か。って、それなら急いで解析しなきゃ」
「解析?」
「うん。どんな成分なのかとか、有毒なのかとか」
「毒があるかどうかなら分かるんだけど、成分までは流石にわからないわ」
「すごいね、どういう構造なの?」
ぼくはそう尋ねながら、ポケットから小さな瓶のようなものを取り出した。コレは中に液体を入れて軽く混ぜるだけで、それの真水と比べた汚染度合いや、地球人にとって害があるかを簡単に教えてくれ、さらにコンピューターに繋げれば細かい成分のグラフなども教えてくれるというサバイバルグッズだ。だいたい2600アースくらいだったはず。
「目や鼻みたいな感覚器官かな。言葉通り肌で感じるっていう感覚だよ?」
inv星人はそう答えた。
「へぇー、面白そうだね」
「そうかな、意識したことないから」
「それじゃあちょっと入れてくる」
一応外に誰もいないか、ドアの窓越しに確認をする。うん、なにも居なさそうだ。ぼくはサッと扉を開けて腕をのばし、瓶に数滴の黄土色の雨を入れると、またサッと腕を引いた。
「すごい……慣れてるんだね」
inv星人がそう言った。褒められるとは思っていなかったから、少し驚いたし……それに。
「そう……かな?」
ぼくはドアを閉めて、瓶をinv星人のいるテーブルの上に置いた。
「うん!いわゆるプロの技だったよ」
「そこまで!」
inv星人はキョトンとした。ただぼくは気がついてしまった。彼女の口角が、少しだけ上がっていることを。
「ふーん、なんでえ?」
「……分かって言ってるでしょ」
「別に、私褒めただけでしょ?なんで嫌なのかな〜って」
inv星人はぼくをじっと見つめた。その表情は平静を保とうとしているんだろうけど、もうニヤニヤを抑えられそうになかった。そして、ぼくを逃がすつもりはなさそうだった。
「……照れるからだよ」
「ふふ、そっかー。じゃあこれ以上は嫌われそうだしやめてあげよう。感謝するんだよ?」
なんでだよ……そう突っ込もうと思ったその瞬間、inv星人の顔がすぐ隣にあることに気がついた。目で追えない速さ。ぼくの視界いっぱいに、彼女の顔が広がった。薄灰色の顔。大きくてくりっとした目。小さな口。地球人のものとは似ているけれど遠い顔。なんだか……。
「顔、真っ赤だよ」
inv星人は耳元でそう言った。くすぐったい。inv星人はまた素早く移動して椅子に座り、ぼくを見た。もう、ポーカーフェイスにするつもりはなさそうだ。
このままやられっぱなしは嫌だ。
「なぁ」
ぼくはゆっくりとinv星人に近づいていった。あんまり遠くないはずなんだけど、inv星人がだんだん遠ざかるせいで時間がかかった。
「え、え?」
「お互いに名前くらい知っといた方が良いだろ?オレはビーシュ。お前のは?」
「あ、あーなるほどね。ダメだよ、急に女の子壁に追いやったら」
追いやるつもりはなかったんだけどっ!勝手に壁の方に行ったんだからしょうがないじゃん!
「それじゃ、あ!」
後ろから突然なにかに押された。inv星人が伸ばした腕だった。不意打ちだったのと、意外と力が強かったのとでぼくは簡単に押され、ぼくが壁側になった。inv星人がにやっと笑った。
「私はケイハン。さ、カッコつけるのもおしまい、不慣れなことすると危ないよっ?」
そう言い残してケイハンは背を向けて椅子に向かっていった。
「カッコつける……か、ケイハンが言うんだ」
さっきのセリフ、しっかりカッコつけてたじゃん。
雨は長い間振り続けた。そして一瞬とんでもない量になったかと思うと、それっきりピタっと止んだ。
椅子に座ったケイハンは、ビーシュには見られぬようにもう一度、ニヤッと笑った。つづく。
こんにちは!はとです!
さっさとくっつけ。いや、それはそれで面白くないな ……。
いやケイハンさ、ちゃんと意味はあるんだけどさ、どうしても京阪になるやんなぁ……。
それにしてもビーシュくん、とても年相応とは思えないのだけれど……ま、いっか。
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