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自分の命は自分で買うスタイル 2

 


「どうしよう、アルト。とんでもなく綺麗な生き物がいるのだけれど。まさか美少女だとは思わなかったわ……」


「……聞こえてるけど。何、美少女って。失礼じゃない? 僕、男なんだけど」


「ひぇ……」



 そこには、息を呑むほどの美少女もとい美少年がいて、思わず何もかもを忘れてうっとりと見惚れてしまった。暗殺者らしく全身黒ずくめなのが惜しい。ちゃんとした服を着たら、さらに光り輝くことだろう。


 銀糸のような少し長めの髪の毛はサラサラだし、蜂蜜色の目はこぼれ落ちそうなぐらい大きくぱっちりしている。前世でいうなら芸能人ってやつかしら、としみじみと考えて、アルトの



「よく考えてください、お嬢様。あれは暗殺者ですよ、暗殺者。さっき殺されかかったの、もう忘れたんですか?」



 という言葉で我に返った。



「そ、そうね。いくら綺麗といえども、その事実は忘れちゃダメよね!」



 おっといけない。今もまだカタカタと手が震えているのに、その張本人に目を奪われるなんて。……とはいえ、無類に美しいものが好きなんだもの。仕方がないじゃない。


 そもそも、これから行動を共にするなら怯えている場合ではない。私はギュッと震えを抑え込み、ナイフをしまった彼に手を差し出した。



「私、オルコット=リコエッタというの。無実の罪で婚約破棄&国外追放された、悲劇の美少女よ。貴女の名前も教えて欲しいわ!」


「……さっきまで殺そうとしてた人と握手しようとするとか、馬鹿なの? そんな能天気で、よく今まで生きてこれたね」


「アルト。この子、言葉の切れ味がすごいわ。まるでジャックナイフよ! なんか爪を立ててる猫ちゃんみたいで可愛いわね」


「お嬢様、そんなに平和ボケしてたらすぐ死にますよ。あと少しも可愛くないです」


「アルトまで!?」



 みんな、もう少し私に優しくしてくれてもいいんじゃないかしら! そう思って不満げな顔をすると、よしよしとアルトに背中をさすられた。この執事、私のことを幼い頃のままだと思ってるわね?


 すると、そんな私達の様子を見て痺れを切らしたように、暗殺者の彼が口を開いた。



「……てか、名前なんて教えるわけないでしょ。適当に殺し屋とかでいいよ」


「それはこっちが嫌よ! 呼ぶたびに死を意識しちゃうじゃない」



 そもそも、殺し屋なんて街中で呼んだら街の人に通報されるだろうし語呂も悪い。私は、まじまじと目の前の彼を見つめて、ふと思いついた名前を口にした。



「ミューズ」


「はぁ……?」


「女神様みたいに綺麗だから、今日から貴方の名前はミューズよ。みゅーくんって呼ぶわ!」


「そういえばお嬢様ってネーミングセンス皆無でしたね」


「なんですって!? アルトだって人のこと言えないくせに!」


「……馬鹿じゃないの。女神とか、あり得ないんだけど」



 ポカポカとアルトを殴っていると、ポツリと呟きが聞こえた。そのキツい言葉とは裏腹に少し照れているように見えたから、ついついニッコリしてしまう。


 暗殺者にミューズと名前をつけるなんて、なんて罰当たりな! と言われそうだが、私はこの境遇に見舞われている時点でも神を信じられるほど信心深くない。むしろどこかにいるかも分からず、救いも差し伸べてくれなかった神様への当てつけまである。



「よし、みゅーくん! ミレトスの街までの道を案内してちょうだい。正直に言うと私達、道に迷って野宿2日目よ! 遭難中よ! そろそろ雑草煮込みから解放されたいわ!!」


「……アンタ、ほんと能天気すぎ。意味わかんない。なんでもう僕のことそんなに信頼してんの」


「だって私、貴方とアルト以外に頼れる人なんて1人もいないもの。逆にお金で雇ってると思う方がまだ信頼出来るわ。それに、3カ月は私に雇われてくれるのでしょう?」



 そう言ってみゅーくんに微笑みかけると、みゅーくんの口からまた、「馬鹿じゃないの」と言葉がこぼれ落ちた。そして、諦めたように無言で東の方を指差す。



「……あっち。ここからなら今日中につけるんじゃない?」


「みゅーくん……! Big Love!!」


「ちょっと、鬱陶しいから近づかないで!」



 やった、やっとだ。やっと、街に到着する希望が見えて来た。土の匂いに包まれながら眠る日はもう終わったのよーー!!


 感極まってみゅーくんに抱きつくと、相当嫌そうに顔を歪められたが、気にせず頬擦りまでする。それぐらい街の存在と、ようやく私に立った生存フラグが有り難い。


 すると、やれやれといった顔をして私達の様子を見ていたアルトが口を開いた。



「お嬢様、噛み締めてないで早く行きますよ。俺もそろそろ、ふかふかの布団が恋しいです」


「分かってるわ! そんなの私もよ!」



 布団。ご飯。綺麗な服。


 この3つをこんなに求める日が来るなんて、2日前の私からしたら考えられない。そもそも前世がなければ、常に使用人にお世話されて生きてきた私は、ここまで過酷な生活に耐えられていなかっただろう。


 生きたい。もっと生きたい。


 友達も欲しいし、クソポエマー王子より100倍イケメンな彼氏も欲しいし、なんならお金持ちにもなりたい。えぇ、俗物と笑うがいいわよ。だって、これだけ願ってもバチが当たらないと自分でも思えるほど、奪われたものが多すぎる。


 そのためにはまず街へつくことが最重要案件だ。生存生存。何事も命あっての物種なのよ!


 私は頭の中で妄想を膨らませ、必死に足を動かして動かして動かして────。



「着きましたわーッ!!!!」



 ようやく、街が見えた。空は暗いし、風も冷たくなってきたころだったから、街の灯りが本当に有り難い。


 まさか街の灯りを見て生を確認する瞬間が来るなんて思ってもみなかった。自分の喉から出た雄叫びにビックリしつつ、気を取り直して歩みを進める。



「お疲れ様ですわ!」



 そして、私はしっかり武装した門番の人に挨拶をして街への門を通ろうとして、あっさり止められた。



「ちょっとちょっと、お嬢ちゃん。身分証を出してもらわないと通せないよ」


「……身分証、って?」


「一応、街に入る前に身分証を検閲してるんだ。犯罪者だった場合、街にいれるわけにはいかないからさ」



 その言葉に、アルトが「まずい」と呟いた。何も待たされずに捨てられた私達は勿論身分証なんて待っていないし、冤罪とはいえ国外追放された犯罪者だ。おまけにみゅーくんは暗殺者。当たり前だが犯罪者である。


 まさにチーム犯罪者。全員犯罪者。もうどうにもならない。


 私は、バッと後ろを振り返って心の中で絶叫をあげた。



 ────完全に詰みじゃなくってッ!?


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