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婚約破棄と前世の記憶は突然に 3



 婚約破棄の最中にエラーを起こした私の未来は、どうにか原作と別方向に舵を切り始めていた。


 まず第一に、国外追放がきちんと果たされた。私の実家は自分達の領地が減らされないように、と責任を逃れるように私と無関係であることを主張したし、取り巻きばかりで友人なんていなかったからあっさり国外追放された。


 つらい。せめて1人ぐらい引き止めてくれたっていいじゃない。まぁ、あの社交界に残るぐらいなら国外追放された方が楽だけど。


 それに、「ちょっと待った!」と引き止めてくれるイケメンがいることを信じたけど勿論いなかった。悪役令嬢にヒロイン仕様は搭載されていないのである。大丈夫よ、私。1人でも強く生きていけるわよ、私!


 ……そういうところがダメなのかしら。追放されてもこのメンタルでいられる時点で、悲劇のヒロインには向いていない。


 いやしかし、リアルヒロインとのパワーバランスの差が過ぎる。絶対もし私がヒカリちゃんをガチで殺そうとしても、なんだかんだ補正が入って奇跡の復活! とかなるんでしょ。もう見飽きたわ。そんな展開。


 ねぇ神様、エコ贔屓が過ぎるんじゃないかしら?


 そんなわけで、王子を平手打ちしたことも相まって流れるように国外追放を受けた私だが、もう一つ原作とは変わっていることがあった。



「アルト。足が疲れたわ」


「……だから何ですか」


「おんぶしてちょうだい」


「嫌です。言っておきますけど、俺はもう執事じゃないんですからね?」



 それは、執事であるアルトも一緒に国外追放されていること。



「あら。それなら敬語はやめてって言ったじゃない。私達は一蓮托生、運命共同体、唯一の仲間なんだから!」


「……無理ですよ。俺が何年お嬢様に仕えてきたと思ってるんです? そもそも、誰のせいで俺まで国外追放になったと思ってるんですか! あと、そこまで言葉を並べられると逆に薄っぺらく感じるからやめてください」


「私よ! えぇ、確かに巻き込んだのは私よ? でももうどうしようもないし、心から申し訳ないと思ってるし、賠償金も払ったじゃないの!」



 このイレギュラーの原因は、勿論私だ。王家から糾弾された時に、共犯として執事であるアルトがあげられたので、1人で国外へ追放されることが怖かった最低な私はとっさに否定せずに黙秘を貫いたのだ。なお、原作のオルコットはすぐに殺害未遂を起こしに行くので、糾弾される展開はない。


 孤児であるアルトに家族はいないとはいえ、冤罪をかけたことを申し訳ないとは思っているし、謝っても謝り足りないということは分かっている。


 それでもやっぱり1人は心細いので、こっそり持ち出した宝石をアルトに渡して、それを賠償金と私が自立出来るようになるまで側にいてもらうためのお給料だということにしたのだ。


 あのときは咄嗟だったけれど、今まで貴族令嬢として壊れ物のように大切にされてきた私にとって、馬車から下ろされた時の不安は半端じゃなかった。それこそ、その場で殺してくれと御者の人に頼んで、人生を終わらせようとしたぐらいには。


 だって、知らない土地に1人きり。あるのは申し訳程度に渡された鍋と水のみ。あとは着の身着のまま放り出されて、そんなのどうやって生きていけばいいのか見当もつかなかった。


 今まで信じてた家族や友人は守ってくれなくて、あんなに愛していた人にも捨てられた。例え、前世というとびっきりのエラーを持っていても耐え切れないぐらい、怖くて泣きたくて崩れ落ちそうだった。


 それでも追放から2日経った今、軽口が叩けるぐらい復活したのは、隣にアルトがいてくれるからだ。



 ごめんね、アルト。黒髪紅眼のイケメンだし、若いし、健康だし。将来有望株間違いなしだったのに、道連れにしちゃって。今の私には、あなたを拾った時みたいに、幸せにする自信も力もないのに。



 私は、その言葉をギュッと飲み込んでアルトの手を両手で握りしめた。



「……任せてちょうだいね。貴方のこと、私についてきて良かったって思わせるぐらい幸せにするって約束するわ!」


「お嬢様の約束って何の保証にもならないですよね?」


「あら、心外ね。私には現代知識があるのよ。チートよ、チート」


「チートって何ですか」


「……よく考えたら何かしら」



 そもそも、この世界は乙女ゲーム世界だ。しかもヒロインが異界、つまり日本からの落ち人だという設定だから、ヒロインが生活に困らないぐらいの現代設備は家電から魔道具へと名前を変えて整っている。


 そしてこれから、ヒロインが専門家サポートの元、現代知識tueeeeeをやる。だってそういうゲームだから。


 あれ。もしかして私の現代知識ってチートじゃないのでは……?


 私の発言に、再度頭を抱えたアルトは、溜息を吐いて私の手を振り払った。



「ッ、とにかく! 早く街に向かいましょう。早くしないとまた野宿になりますし、そろそろ飢え死にますよ」


「そうね。そろそろ雑草煮込みには飽きてきたわ」


「逆に雑草煮込みで2日凌いだことにビックリしてますけどね」


「あら、私って意外と図太いのよ? だから、もし隣国の王子様に求婚されてもドロドロの後宮を生き抜く自信があるわ。いつでも受付募集中よ」


「そもそも、それだけ図太いから婚約破棄されたんじゃないですか?」



 ええい、うるさい! 前世を思い出すまではもう少しお淑やかだったわ! アルトの身も蓋もない言葉に、無言でグーパンチをいれて、崩れ落ちるアルトを横目に歩きだし、ふと思いついたことを口にした。



「ほらアルト、早く立ってちょうだい。そもそも早く街につかないと、私という不安要素を物理的に消すために、ゴミ王家が暗殺者を差し向けてくる可能性だってあるのよ」



 あのゴミ王家のことだ。オルコット濡れ衣処刑を原作でもやらかしているのだから、何をしでかすか分からない。しかし、そう思って口にした言葉は、悲しいことに当たっていたようで。



「へえ、よく分かってるじゃん。だからごめんね、ここで死んでくれる?」



 首元から、ヒヤリとした感覚が伝わる。耳元で聞こえた声に驚いて下を向くと、鋭利なナイフが首元につきつけられていた。


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