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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

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第997話 クロスステッチの魔女、木の上の景色を眺める

 私の着ていた服も、次の日の昼には乾いた。夏の盛りはもう過ぎているから、夜の間はそこまで暑くならなかったのだ。山の麓ならもっと早くに乾いて、昼前には片付けて出発することもできただろう。この辺りは木も多いから、陽射しの入り方はやっぱり少し弱かった。


「あー。こんなのだった気がするわ……」


「木の上がですか?」


「そうそう。ほとんど村長の家にいたけれど、お使いで遠出をした時にたまに、木の上で夜を明かしたのよ。前はもっと太かったなあと思ったんだけど、考えてみたら、私が大きくなっていたわ」


 痩せっぽっちの孤児には、細い木を登るだけでも大変だった。今ではするすると登れるけれど、腕や足の長さが違うのだから当然だ。それでも登らないと、魔物も獣も襲ってくる可能性があった。今は、《魔物避け》と《猛獣避け》があるから、その二つを気にすることはほとんどない。万が一それらを気にしないモノが来たとしても、元々危ないと伝えられているような場所には近寄らないから、後は魔法も使って逃げられる予定だ。……北方山脈に魔法が効かない魔物や獣の話を聞いたことはないけれど、冬ではないから、クマをそれほど恐れなくていいのは気が楽になる。『穴持たず』のクマは、魔女になってからも遭遇なんてしたくない。


「木の上、懐かしいー?」


「自分が大きくなったことも感じるけど、大体、懐かしいかなあ。うん、景色もやっぱり、他の森や山より少し懐かしい感じもするからね。多分、植物の違いかな」


 渡していた紐だの布だのを片付けるのに、もう一度登って周囲を見回した。先端に結えたわけでもないから、箒を出す必要性は薄かったのだ。完全に、見覚えのある景色、というわけではない。ただ、植物の種類であるとか、木の生え方とかが、似ていると思った。当時の私には学がなかったから、どこでもそんなものだと思っていて――実際は、そうではなかった景色。


「歩いて行ったら、今日中につきますかね?」


「さあね。ゆっくり歩いて、あと二日はかけたいから……何かいいものがないか、採取しながら行くつもりなの。河原に転がっていた綺麗な石や魔法に使える木の葉とかはきっと、まだ、あるかもしれないから」


 すべての片付けを終えて、私は地面に降りて歩き始める。わざと箒に乗らないで地面を歩くのは、随分と久しぶりのような気がした。


「僕たちも歩きますか?」


「いいのよ、私の自己満足なんだから。このまま、歩いて行くわ」

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