表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

996/1071

第996話 クロスステッチの魔女、夜を過ごす

 水浴びをして、新しい服に着替えた後で、踏み洗いをする。それらの服が乾くまでには、時間が必要だった。特に、私の服はどうしても、大きくて水をよく吸ったから。夏とはいえ、もう日は傾いてきた時間帯。木に渡した黒布の横に紐を渡して、私の服やルイス達の服、それからアワユキを干しておいても、最低でも明日の朝までは乾かなさそうだった。


「主様ー、アワユキもぶらぶらしてないとだめ?」


「濡れちゃったもの、そこでぶらんぶらんしておいてくれる?」


「はあーい」


 砂糖菓子を食べさせてやると、大人しくぶら下がっておいてくれるようになった。アワユキだけぬいぐるみの体だから、他の子達が陶器の体についた水を布でふき取っているようには、簡単にはいかないのをこういう時に考えてしまう。こういう時に布や服を焼き捨てる場所もあるそうだけれど、そんな余力はこの辺りにはない。なので、洗うのがこの地域のやり方だった。


「あるじさま、今日は何を食べられますか? 干し肉を出されますか?」


「ううん、まだ数日はやめておきたいかな。今日もパンで」


 本当はそろそろ、バターとかを食べたいのだけれど。鳥や獣に由来する食材は、生者の義務を果たしている間と、終わってからしばらくは食べられなかった。死体の肉を食っていると間違われるから、だったか。あと三日位はお預けだから、村にはゆっくり向かうことにする。迂闊に近寄って、巻き込みたくはない。


「早く食べられるようになりたいですねえ」


「そのまま付き合ってくれてありがとうね。せめてもの工夫として、火を熾して、焙って食べようか」


 こうするとバターは少し、恋しくなるのだけれど。何もせずにそのまま齧るのは寂しいというか、勿体ないというか。贅沢者になったな、なんて思いながら、私はパンを食べていた。


「マスター、マスターの村まではどれくらいかかるのでしょうか」


「ちょっとそれくらいはやっておきましょっか……《探せ》」


 私が魔法を使うと、ふわりと布は蝶になった。あまり遠くないらしい。なら、ゆっくり行くことにした。知っている場所や見覚えのある景色があれば、それを歩いて見回ってもいいかもしれない。


「キーラさま、おうちには誰かいるんですか?」


「さあ。私の知っている人が、生きているかも怪しいくらいの時間が経っているのよね」


 二十年。麓では大したことがないのかもしれないけれど、山では結構な時間が経っている。人は早めに死ぬからだ。だから、知らない場所に辿り着く可能性もあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ