第992話 クロスステッチの魔女、作業を続ける
二つめの病人小屋の人達を埋めるのには、元々の墓場では足りなくなった。それでも、まとめてひとつのところにはいたいだろう。だから、魔法で草を刈り、木を倒し、それらはありがたくいただきながら墓地を広げた。イラクサはなかったけれど、墓地の植物にも少しだけ力がある。私にも損はなかったし、そういうことを咎めて来るような人も、もういなかった。
「夏が終わりそう……」
骨になっている後に来たのは、運のいいことだった。そうでなければ、多分、色々とさらに魔法を使わないと、大変なことになっていただろう。すべてを終わらせて離れるまでは、肉も魚も食べられない。しかし、まだの『残って』いたら、例え終わった後でもしばらくは食べられなかっただろう。
「もうひとつ村に行かれますか? それとも、もう帰られますか?」
「一日二日だけ寄って帰るかな……距離次第だけど」
「近いといいねえ」
「鳥だったら行かない、とかになるかもしれませんね」
「もう少し、距離がわかるといいですよね」
ルイス達とそんな話をしながら、また一人を運び出す。土の下は、死んだ人間にとって、最上級のお布団と同じなのだと誰かが言った。埋めてしまえば、野晒しで獣や魔物に骨を盗まれたり、喰われたり、弄り回される危険もなくなる。
悪い犬が死者の肉を喰って呪われた、という物語を聴いた記憶もあったけれど、『黒いの』は元気そうだった。食事時になるとパンを欲しがるので、言われるままに分けてやっている。犬は肉を食べるだろうに、と思っていたのだけれど、どうやら前からこうやって人の食べるものをもらっていたようだった。当人……当犬、は、久しぶりにそれができて嬉しい、としか思っていないらしい。
『もうすぐみんな、お引越し終わるのー?』
「そうねえ、もうすぐ終わるわ」
ふたつめの小屋の終わりが見えてきた頃の夜に、私はふすふすと鼻を鳴らす『黒いの』にそう聞かれたので、そのまま返した。撫でて欲しがるので、よしよし、と頭を撫でてやる。人々を埋め終えたら、この子とはそれまでだ。この子は気づいていないか、忘れているか――少なくとも、意識はしていないようだけれど。
「全部終わったら、きっとあなたのおじいさんにも会えるわよ」
『そっかあ!』
じゃれついてくる犬の顔を両手で包むようにして、さらに撫で回す。その毛並みの手触りは、最初の頃から確かに変わりつつあった。
それが、終わりの近づきつつある証でもある。生者の義務、村の埋葬の終わりが。




