表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

992/1072

第992話 クロスステッチの魔女、作業を続ける

 二つめの病人小屋の人達を埋めるのには、元々の墓場では足りなくなった。それでも、まとめてひとつのところにはいたいだろう。だから、魔法で草を刈り、木を倒し、それらはありがたくいただきながら墓地を広げた。イラクサはなかったけれど、墓地の植物にも少しだけ力がある。私にも損はなかったし、そういうことを咎めて来るような人も、もういなかった。


「夏が終わりそう……」


 骨になっている後に来たのは、運のいいことだった。そうでなければ、多分、色々とさらに魔法を使わないと、大変なことになっていただろう。すべてを終わらせて離れるまでは、肉も魚も食べられない。しかし、まだの『残って』いたら、例え終わった後でもしばらくは食べられなかっただろう。


「もうひとつ村に行かれますか? それとも、もう帰られますか?」


「一日二日だけ寄って帰るかな……距離次第だけど」


「近いといいねえ」


「鳥だったら行かない、とかになるかもしれませんね」


「もう少し、距離がわかるといいですよね」


 ルイス達とそんな話をしながら、また一人を運び出す。土の下は、死んだ人間にとって、最上級のお布団と同じなのだと誰かが言った。埋めてしまえば、野晒しで獣や魔物に骨を盗まれたり、喰われたり、弄り回される危険もなくなる。

 悪い犬が死者の肉を喰って呪われた、という物語を聴いた記憶もあったけれど、『黒いの』は元気そうだった。食事時になるとパンを欲しがるので、言われるままに分けてやっている。犬は肉を食べるだろうに、と思っていたのだけれど、どうやら前からこうやって人の食べるものをもらっていたようだった。当人……当犬、は、久しぶりにそれができて嬉しい、としか思っていないらしい。


『もうすぐみんな、お引越し終わるのー?』


「そうねえ、もうすぐ終わるわ」


 ふたつめの小屋の終わりが見えてきた頃の夜に、私はふすふすと鼻を鳴らす『黒いの』にそう聞かれたので、そのまま返した。撫でて欲しがるので、よしよし、と頭を撫でてやる。人々を埋め終えたら、この子とはそれまでだ。この子は気づいていないか、忘れているか――少なくとも、意識はしていないようだけれど。


「全部終わったら、きっとあなたのおじいさんにも会えるわよ」


『そっかあ!』


 じゃれついてくる犬の顔を両手で包むようにして、さらに撫で回す。その毛並みの手触りは、最初の頃から確かに変わりつつあった。

 それが、終わりの近づきつつある証でもある。生者の義務、村の埋葬の終わりが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ