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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

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982/1071

第982話 クロスステッチの魔女、雲を巻き取る

 猟師小屋を出たのは、翌日のことだった。朝のすがすがしい空気の中で伸びをしてみると、昨日、スコップを直しながら考えていた気分の悪くなる想像が、全部考えすぎのような気がしてきた。


「今日はよく晴れていますね」


「青い絵の具でびしゃびしゃにしたみたいに綺麗ー」


「その例えがあっているかは考えてしまいますが、言いたいことはわかります」


「空を飛んだら気持ちよさそうですね、キーラさま」


 《ドール》たちが口々に言ってくれる言葉に頷きながら、私はパンをかじる。それから小屋に魔女の砂糖菓子をひとつ置いて、出ていくことにした。魔女の砂糖菓子を置いて行ったのは、一晩の屋根の代金代わりだ。誰もいない朽ちた小屋でも、そういうことは忘れてはいけないような気がしていた。


「よしっ。泣いても喚いても、村がなかったとしたって時間は戻せない。行くしかないわね」


 結局、そう思うしかないのであった。というわけで、私は《探し》の魔法の方向に従い、箒に乗って次の村を探し始める。

 しばらく空を飛んでいる間は、あまり変わったものはなかった。空を飛んで上から見下ろすことで、山の景色は昔と随分変わって見える。色々とすでに拾った後だから、思い切って今日は木々より上に位置を取ったのだ。お天気がいいのも大きかった。一面に青い染料をぶちまけたような青空の日は、思いきり高い場所を、風を切りながら飛びたくなる。


「あの白い雲、糸にできませんか?」


「……やりたくなってきちゃった。魔法の雲ではなくて、普通にできた普通の雲ね。ひとつ貰っていきましょうか」


 私は錘を雲に突き刺すようにして、雲を巻き取りにかかった。くるくるくる、と巻き取っていくと、白くて綿のように膨らんでいた雲が少しずつ縮んで、薄くなっていく。


「これは雨の全く入っていない、カラッカラの白い雲ね。でも、これはこれでいい白色になりそう」


「何かの魔法にしましょうよ」


「何に使えるか、後で本で調べてみることにするわ。夏雲の一部は……そうだ、グレイシアお姉様は前に、雲を瓶に入れていたっけ。あれもやっちゃおう。誰か、私のカバンから空のガラス瓶出して。大きめの奴」


「はーい」


 するするとアワユキが動き、しばらくカバンの中をごそごそと漁り始めた。魔法で空を飛んでいるルイスや他の子達が、アワユキの近くで何かあったら自分達が取れるように身構えている。ちょっとかわいい。


「あったー!」


 錘にたっぷりの雲を巻いたのは、後で糸にすることにする。それから瓶いっぱいに、雲を詰め込んだ。

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