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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第98話 クロスステッチの魔女、生き物を拾う

 その生き物の姿は、朧げだった。雪と同じような白い色をしていて、かすかに動いたように見えなければ気づかなかっただろう。それに、雪よりも少しだけ白い。降る前の、地上の土や泥の汚れを受ける前の雪の色だ。この前、雲の中に突っ込んで行った時の色の方が近い。


「生きてる……のかな……?」


 害意は感じられない。魔力を本当に少しだけ感じるけれど、雪と一緒に掬い取ったそれの姿を、私はうまく見ることができなかった。カタチの定まらぬ様子のソレが何か、頭の中で一生懸命お師匠様から習ったことを思い出そうとする。魔物や魔草のような、固まった正体を持たないモノがいる、と確かに習ったはずだ。書き付けは家に置いてきてしまってるし、かなりの量があるあれを呑気に調べてる時間はなさそうだけれど。


「……とりあえず、かまくらの近くに連れて行こう。あそこは暖かくしてあるから、あなたには向かないかもね」


 そう言うと、それは小さくキュイと鳴いたような気がした。


「ルイス、何か拾ったから使ってないお皿を家から持ってきてくれる? ちょっと急ぎで!」


「えっ? わ、わかりました、マスター!」


 雪兎の目をつけるのを一旦後回しにしてかまくらに戻ってお願いすると、中で紅茶を淹れてくれていたルイスが慌てて家の窓から飛び込んでいってくれた。しばらくして予備の木皿を持ってきてくれたルイスにお礼を言って、皿いっぱいに表面の綺麗な雪を掬い取る。その上に拾った生き物を乗せると、それは感謝を示してるような気がした。


「マスター、それはなんですか?」


「うーん、お師匠様が前に言ってた気がするんだけど思い出せなくて……悪いモノじゃなさそうだし、つい拾っちゃった」


 ルイスは興味津々といった顔で生き物を見ていたものの、しばらくして「……そうなの?」と呟いた。


「マスター、この子、マスターの砂糖菓子とそれが欲しいって言ってる気がします」


「どれのことかしら」


「マスターが雪兎って言ってた奴です」


 何故ルイスには言ってることがわかるのかは、わからない。それがあってるのかも、そもそも雪の上に置いたことがあってるかも、わからない。そうやってわからないことを挙げていくのなら、つい拾ってしまった生き物の正体だってわからないのだ。だったらルイスの言うとおりにしてみよう、と、私は魔法の刺繍から魔女の砂糖菓子を作り出す。雪の上で魔法をかけたせいなのか、心なしかいつもよりも白いような気がした。基本の基本だからこそあまりブレが起きることはない、と習った覚えがあるから、気のせいかもしれないけれど。

 とにかく砂糖菓子と雪兎を皿に載せてやり、ここからどうなるのかを見守ることにした。

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