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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

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第978話 クロスステッチの魔女、大きな山に入る

 地図の位置関係と私の向いていた方角が正しければ、エルキリアという名前だろう山。それは、今まで越えてきた中でもかなり大きな山だった。北方山脈と呼ばれるこの辺りの中でも、他の地域で見てきた山の中でも、特に大きく感じる。


「村が三つもあるような山だから、当たり前と言えば当たり前かあ、大きいのは」


 なんてことを呟きながら、飛んで谷――山と山との間だから、多分谷でいいだろう――を越えた。山頂近くから飛んだのに、エルキリアの山はまだまだ上があった。

 エルキリアの山は、北方山脈の中では緑が多そうに見える。とはいえ、それも「比較的」の話で、例えば前に歯車細工の魔女と一緒に行った山だとかに比べると、木々の葉の茂り具合なんかは弱かった。

 北の山々はどうしても、他の地域と比べて恵みが薄い。リスや小鳥まで丸々と肥えているようなことはなく、人と獣は実りを取り合う関係だった。一緒に生きていけるのは理想だけれど、本当に理想だ。特に肉を食う獣が相手だと、迂闊なことをすれば、自分が夕食にされるのだから。


「《獣避け》の魔法はずっと使っているけれど、みんな、熊とか見かけたら教えてね。それから、無理に戦おうとしないこと! これは絶対だから」


「そうなんですか? マスターはお肉が乏しいと仰ってましたし、見かけたら狩りたいと思っていたのですが……」


 私はルイスの言葉に、首を横に張った。


「山の獣は基本的に、村の人達の資産になるわ。それに何より……こちらが何もしなくても、襲ってくる獣や魔物はいるもの。そういうのに矢とか体力は取っておいて欲しいわ」


 人形の体で体力が本当にあるかは、一旦置いておく。少なくとも、私が彼らに食べさせている砂糖菓子の魔力については、活動するための力という意味では存在しているはずだ。砂糖菓子くらいいくらでも出せるし、出すことで私の懐なり魔力なりが傷むこともない。けれど、いざという時に動きが鈍ったりして、大変なことになるかもしれないのが嫌だった。


「……わかりました、マスター」


「今度、わたくしも力にならせてくださいませ」


「ラトも!」


「アワユキもだよぉ」


 みんなが競うようにそう言うから、それができそうな山に着いたらね、と約束をした。かわいい子達と触れ合いながら、エルキリアの森で使えそうなものがないかを物色する。とはいえ、食べられる物や、普通に使える物を持っていくつもりはあまりなかった。

 人間の役には立たない、魔女にだけ使える物。そういうのが一番、面倒が少なかった。

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