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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

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第977話 クロスステッチの魔女、次の山に向かう

 山の印石の横でお茶をしてから、立ち上がる。日が暮れる前に、次の山には行きたかった。

 次の山こそが、同じ名前の村が三つあるエルキリアになる。はずだ。確か。山の名前なんて山に書いてあるわけがないのだけれど、エルキリアの一番近い村を探させた結果導かれているから、それで合っているはず。たぶん。


「村が三つもあると、どうやって区別してるんですかね?」


「そもそも交流があるか次第、かも……山道は危ないし、距離もあれば、『お隣』と頻繁に行き交ってない可能性はあるから」


 ぼんやりと、人間だった頃を思い返そうとする。少なくとも私がいた辺りでは、隣村との行き来は簡単ではなかったはずだ。ちょっとそこまで、と私がお師匠様の家を訪ねるよりは、思い切った準備と理由が必要だった気がする。


「自分たちの村の外とあまり交流がないって、寂しくないんですかね?」


「さあ……少なくとも、同じ村の仲間たちはいるから、ひとりぼっちではないんじゃないかしら」


 孤独感は当時もあった気がするけれど、本当に孤独というわけではなかった。独り立ちしてからルイスを買うまでの、ごくごく短い期間だけがそうだった気がする。あの時、あまりにも静かで、風が木々を揺らす音が聞こえてくるだけでも、少し安堵さえした。村では完全に人の輪に溶け込めてなかったとしても、人の立てる音や気配は側にあったのだ。

 きっとあの時の私は、例えルイスがいなくても。《魔女の夜市》の中をくまなく探し回っても、何倍もするような高級品の《ドール》しかいなかったとしても。全財産をはたいてだって、《ドール》の一人は連れて帰っていただろう。お師匠様の元に戻らず、お姉様の元に行かなかったのは、せっかく独り立ちできたのを取り消されたくないという意地だった。何せ、許可が出るまで他の魔女より長くかかったのだ。これ以上伸ばされるくらいなら、孤独感に耐えることを選んだ。


「山道が見つかれば道沿いで、そうじゃなかったらまあ……それならそれで、なんとかなるでしょうね」


 私はそんなことを呟きながら、私は箒に乗った。印石が埋まっている山頂は少し土の地面がならされていて、家ひとつ分程度の広さの空間から向こう側……私たちが目指す方角は、坂ではなく段差になっていた。崖、というには小ぢんまりしているけれど、少なくとも、道はない。


「えいっ」


 とはいえ、私は魔女なのだ。そこから飛び降りるように地面を蹴って進むと、箒に魔力を通す。そして、飛び始めた。

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