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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

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第974話 クロスステッチの魔女、涼む

 翌朝になると、空はよく晴れていた。それでも完全に雲ひとつない、とは言えない空だったのは、まあ、山の夏だから仕方ない。


「よし、今日は早く出るわよ」


「そうなんですか?」


「またあの雲が追い付いてきて、雨宿りになったらいつまで経っても到着しないんだもの」


「魔法を使ってみたらいいのにー」


 アワユキに言われて、確かに、と外套のことを考える。あの、雨を弾くための外套だ。他にも確かに、そういう魔法は作っていた。つい昨日に。


「……たまにはやってみるかあ」


「まず、雨が追い付いてこないことをお祈りになるべきかもしれませんわね、あるじさま」


 キャロルの言葉に頷きながら、簡単に荷物や火の始末をする。それから箒に乗って、一気に上に飛びあがった。


「三つ目の村は、鳥になるということは……少しありますね」


「この山をてっぺんまで行って、それから別の山まで行かないといけないもの。私達は飛んでいけるからいいけれど、そうじゃない人達は大変よね」


「確かに」


 私達が飛んでいる足元では、岩の多い山の斜面が広がっている。歩くとどれくらい大変かなんて、考えたくもなかった。絶対に嫌だ。夏だから、山の上で比較的涼しかったとしても、たっぷり汗をかくのだって目に見えている。もちろん、汗だって魔法で簡単に綺麗にできる。けれど、人間だった頃の感覚が残っているからこそ、単純にやりたくなかった。服の臭いも魔法で消せるとはいえ、単純にそういうことをしたくないというか、そうなりたくない。


「……ちょっと日除けと暑さ散らしの魔法を出そうっと。カバン取って」


「はい、マスター」


 私は適当な木の枝の上に着地して、カバンの中を漁った。今日は特に暑く感じるので、魔法で何とかしようと思うのだ。確か、前に作っていた魔法がこの辺に……あった!


「こっちの外套を羽織って、魔力を通す、っと」


 前にお師匠様からお下がりでもらったその外套は、外套と言えそうなのは形だけだった。白い布、というか半分レースの透き通った生地に、雨除け外套と同じように刺繍が裏地に入っている。こちらは、濃い青色の糸で刺されたものだ。私には魔法の図案がまだわからないものだけれど、これを着ると涼しくなるのがわかる。すごい魔法だ。


「うん、涼しくなった! よおし、しゅっぱーつ」


「主様ー、それ今度みんなに作ってー」


 アワユキの言葉に、私は「本で見つけたらやってみるわね」と言った。汗はかかない体だとしても、涼しくなれるのは確かにいいかもしれない。

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