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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と山越え

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第971話 クロスステッチの魔女、雨宿りに魔法を作る

 木の下に腰を据えてしばらくすると、予想通り、雨が降り始めた。


「主様、お天気大当たりー」


「雲は普通に見えてたから、大当たりも何もないんだけれどねぇ。かなり黒かったから、今日はもうずっと雨かも」


 私はそんなことを言いながら、ラトウィッジが淹れてくれたお茶を飲んでいた。軽く針山と糸と布を広げ、最近使う機会の多かった《雨除け》の魔法の追加を刺すことにしたのだ。


「雨露草の繊維を魔綿と撚り合わせた糸に、青花で染めた布。ここに模様を刺せば《雨除け》になるし、布が大きければ大きいほど、広い範囲を覆って守ることができるのよ」


「せっかくだから作られますの? 今のは、カバンが包める程度ではありませんか」


 キャロルの言葉に私は頷いた。大体のものはカバンに入るし、私自身にも《水弾き》と《雨除け》を合わせた革の外套がある。紺色の表地に対して、裏地に魔法を刺繍した布を使ってあるものだ。ここまで凝ったものにできなくても、最近は今の《雨除け》もよく使っているから、次を用意しておいて損はない。

 というわけで、本が濡れないように油紙の上に置いて、私は刺繍の図案を見ながら刺していた。手が慣れたものでも図案は見ろというのが教えだったし、何より、覚えきれていない。


「みんな好きにしてていいわよ」


「マスターのお仕事を見てます」


「じゃあアワユキ、糸紡ぎしたいから貸してー」


「いい考えですわね、わたくしにもいただけますかしら」


「練習します……!」


 というわけで、ルイスが魔法作成の見物。他の三人は、糸紡ぎをしてくれることになった。なんだかんだと回数を重ねてきたので、綿の塊をあげると、立派な綿糸にしてくれる。ものによっては、相応の素材で染めて魔法に使うこともできるほどだった。今回もあの子達が糸を紡いでおいてくれるなら、正直なところ、かなり楽ができて嬉しい。


「マスターは、魔法を沢山作ってますけれど、いつか新しいのは作りたいんですか?」


「やれたらやりたいけど……どうして?」


 風で捲れた他のページを見て、ルイスが私にそう声をかけてきた。戻しながら聞くと、ルイスは魔法のひとつを指差した。『マリエラの雷避け』という名前がついている、少し複雑な雷避けの魔法だ。


「マスターも新しい魔法を作られたら、キーラの名がつくのかと思いまして」


「多分、そうかもね。昔からある魔法と似てると、特に区別も兼ねてつけられるって聞いているわ」


 ちなみに、そういう意味で一番種類があるのは、《パン作り》の魔法だった。

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