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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第96話 クロスステッチの魔女、二人で雪遊びをする

 溜め込んでおいた食糧でスープを煮たり、魔法の刺繍でパンを作ったり、お師匠様から出されていた課題をこなしたり、天気の良い日に革を干したり。毎日やることはたくさんあった。ルイスも部屋の一角を綺麗にすることで、部屋の中でも剣の練習をするようになって。そうやって冬の一日の巡りが確立して、しばらく経った頃。


「よし、ルイス。今日がその日よ!」


「わぁい、雪遊びです!」


 待ちに待った、雪遊び向きの日がやってきた。昨日は午後のお茶の時間になっても雪が溶けなかったし、今日も雪は降り続けている曇りの日だ。年越しの日まではまだ日があるけれど、去年までよりは少し遅い気がする。けどしっかりとそれなりの厚みで積もっていることが、飛び跳ねる兎の足跡でわかった。雪の降り方は地域で違うとグレイシアお姉様が言っていたけれど、この辺りの雪の質は故郷と変わらない。そこそこ大きな雪の粒が、大輪の花のように降り注いでは積もるのだ。


「今日はいい花雪だからね、遊ぶなら多分向いてる。というわけで、革を日陰に干してから遊びましょっか」


 早速雪用に準備した手袋をつけ、お出かけの準備を整えているルイスは大変に可愛らしい。もっとちゃんとした長靴や雪用の衣装まで手が回らなかったことが悔やまれる。世の魔女達はこうやってお裁縫の腕を上げ、自分の《ドール》に好きなものを着せているのだろうという確信があった。故郷のことは当時はあまり好きではなくて、逃げ出すために魔女になったようなものなのに、距離を置いてしまえば「ルイスにあの辺の冬服着せたいなぁ」と思ってしまう自分がいる。それなりの年月に晒されて、あの時感じていたはずの色々な感情は遠くなってしまった。


「マスター! 早く行きましょう!」


「そうね、ルイス」


 ワクワクとしている様子のルイスを見ていると、そんな感傷をしている場合ではなさそうだった。私も手袋をつけて外に出ると、寒い北風が私たちに吹きつける。それは頬を冷え切った手で撫でていくようだったけれど、悩みかけた思考を覚ましてくれるものだった。


「雪が沢山! ふわふわしてるのに、ひんやり冷たくて不思議ですね! ここで寝転んだらどうなります?」


「うーん、冷たいだけだからあんまり楽しくないわよ。ほらルイス、それより雪を集めるのを手伝って頂戴な」


 まずはかまくらを作ることに決めていたので、家の側の日陰に革を干してから雪を集め始める。ルイスに何をするのかは、驚かせたいからあえて説明しなかった。雪かきも兼ねて箒で屋根の上に乗り、落とした雪も活用する。しばらく雪をもくもくと積んでいたら、私も入れるようなかまくらが出来た。

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