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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と村巡り

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第951話 クロスステッチの魔女、小島に行く

 幸い、《水上歩行》の魔法はうまく行っていたようだった。あれの糸にするために必要な水草は、もしかしたらここで摘んでいけるかもしれない。魔法がかかっている分、水の中に手を突っ込むこともできないので、魔法が切れてから調べてみることにしようと決める。多分、島の中をうろうろしていたら魔法は切れるから。


「マスター、水の上を歩く心地はどうですか?」


「面白いわね、これ! 上の魔法も作ってみて、本格的にあちこちこうやって歩けるようにしてみてもいいかも」


「見て—、あるじさまー、お魚! 今日のご飯!」


「アワユキが捕まえられるならねー」


 銀色の鱗を煌めかせて跳ねる魚が、小さな波を立てる。私の魔法はこれくらいには一応耐えられたようで、少し足元を掬われかけながらも無事に歩くことができた。冗談半分で言った言葉をアワユキは本気にして、何度か挑戦した後で鉱石製の爪に魚をひっかけることに成功している。少し驚いた。


「後で焼こー!」


「そうねえ。後でアワユキの丸洗いもね。水の匂いがすごいから」


「はあい」


 私はそんな話をしながら、わざとゆっくりと水の上を歩いた。お日さまの光を反射して、水面はキラキラ光っている。湖面を渡る風は、この季節この時間帯の地面を吹く風にしては涼しいものだった。


「とうちゃーく」


「何があるんでしょうか」


「すっごく水の匂いがするねえ」


「水の上ですもの」


 好きなように物を言いながら着いた小島は、お茶を淹れて飲む程度の時間で一周できそうな小さなものだった。程よい……濃すぎない程度の魔力の気配。植物たちは湖の豊富な水によって、濃く青々と茂っていた。あんまり採りすぎてはいけないというのは魔女の掟だけれど、これほど育っているなら、少し多めに採って行ってしまってもいいのかも、と思ってしまうほどに。


「あ、この蔓……! 先っぽ持って帰って植えてみよう」


「いいものなんですか?」


「そうね、この子から取り出した繊維で布を織ると一部の魔法を強めるって言われている、魔柳の木に絡みつく青蔓草よ。こんなところで見つかるだなんて」


 短剣で少し切り、湖の水で湿らせた布に包んでカバンに入れる。それからもうろうろしていると、柔らかい黄緑色の知らない草や、綺麗な緑色に染まった葉っぱや、透き通りそうなほど薄い水色の花が咲いている場所が見えた。木々が多いために、周囲は意外と見えない。私は楽しくなって、あれやらこれやらと採取したり、あるいは単純に歩き回った。

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