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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と村巡り

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第949話 クロスステッチの魔女、湖に来る

 小鹿以外の足跡は、半日近く探して幸か不幸か見つけられなかった。いなければいないで仕方ない、と思って、狩りは諦めることにする。箒に乗って、移動を再開することにした。


「今夜はパンだけにしておくかあ」


「おかずはなくていいんですか」


「本当は欲しいんだけどね」


 そんなことを呟いていると、さっきまではあまり見なかった鳥がすいーっと横を通り過ぎて行った。


「……狩りをやめたのを察していたりしない? お前達?」


「マスター、ここで石は危ないです」


 そうなのよね、と呟いた。石をしっかり投げる間、片手で箒を操る自信はないし、投げたところで当たる気もしない。足場が空中の状態では、鳥を撃ち落とせるような威力で飛ぶはずがないのだ。魔法の礫だと、鳥に当たって撃ち落とせるかもしれないとはいえ……多分、やりすぎるのよね……。下手したら色々飛んでしまいかねない。翼とか、足とか、頭とか。下に迷惑もかけるし、食べるところや利用したいところが減るし、獲物に失礼すぎて後が怖い。化けて出てきそう。だから、魔法で倒すことは想定していなかった。


「まあ、これはもう運がなかったと思うしかない、か……食べたかったなあ、焼き立ての鳥」


「狩ってきましょうか? 僕達は飛べるから、きっとできますよ」


「危ないからやめておいてね」


 本気で鳥と空中戦をしそうな予感がしたので、私はちゃんとルイス達に釘を刺しておいた。えー、と不満そうな顔をしているアワユキは、大人しく私の肩に座り直した。ちょっとくすぐったい。あんまりもぞもぞされると、箒がぶれるからほどほどにしてほしいんだけどなあ。


「でもあるじさま、お肉食べたいんでしょう?」


「乾物じゃない方ね。まあ、必ず欲しいわけじゃないからいいんだけど」


「今夜寝る時に、ついでに獲物が獲れるといいですわね」


「そしたら、みんなでお料理しましょう!」


 そんな話をしながら、魔法の導きに従って箒を飛ばしていく。しばらく飛ばすと、今度は大きめの湖が足元に見えてきた。空模様を見ると、日は翳ってきている。


「あら、雲が増えて来たわ。ちょっと降りて、今日は早めに寝る支度をしましょうか」


「また雨にならないといいですね」


「ついでに新鮮な水も汲めるし、水浴びもしてもいいし。うん、そうしましょう」


 そう決めた私は、地面に降りた。水辺で草の多い地面は、不思議なほどに柔らかい。奇妙な場所だったから、何かいい魔法の素材も見つかるかもしれないと期待できた。

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