第942話 クロスステッチの魔女、宴を終える
熊踊りが男衆全員と女衆の一部に広がり、子供も老人も踊り出した様子を、私は蜂蜜酒を傾けながら見ていた。細かったり高かったりする吠え声を聞いては笑い、野太い熊らしい声にもそれはそれで笑う。《ドール》たちもまた、人々が笑う様子で笑いどころを理解したらしく、声を漏らしたりしていた。
「まじょさまー! まじょさまもー!」
「えー!?」
そして月が高くなってきた頃、私にも村の子が覆い被さってきた。こうなったら熊からは逃げられないので、手を引かれて輪の中に入る。周りの真似をして、中腰で歩き、時折吠えてみせた。かなり気恥ずかしいことはしているけれど、どうせ全員そうなので、こうなってくるとやぶれかぶれで楽しくなってくる。
「みんなも道連れよー!」
覆い被さるところで、私は私の《ドール》を全員巻き込むことにした。私一人で全員に被される程度には、当然ながら、皆、小さい。
「マスター何するんですかー!」
「アワユキやるー! 楽しそうだもん!」
「わたくし、うまくできますかしら……」
「とりあえず真似しますね」
四者四様の感想を口々に述べながら、みなも同じように熊になって踊った。全員が熊になったので、しばらく踊ってから解散の流れになる。その頃には、月は真上に登っていて、皆くたくたに疲れていた。
大きな篝火から、小さないくつもの松明へ火が移される。人々はそれで明かりを確保しながら、それぞれの家へ帰って行った。
「熊踊りを楽しそうにやっとくれるお人は、珍しいなあ。さ、お部屋はこっちですだよ」
村人の老婆に『旅人の家』へ案内されながら、「お風呂は入れないの?」と聞く。彼女は他の老婆より一段としわしわで、獣の牙の首飾りをしていた。
「熊にされる直前に、準備はしとります。ちぃと冷めちまってるかもしれませんが、ま、熱すぎて入れないよりはえいかと」
「そうね。じゃあ、ありがたく入らせてもらうわ」
簡単にこの家のものの使い方を教えてもらいながら、一巡した私は老婆に松明を渡そうとした。しかし、彼女の家族らしき人達が来て、「松明はそこにかけておいてくれよぅ」と言われたので、その通りにすることにする。
「さー……お風呂入ろう。熊踊りで汗かいちゃった気がするし」
魔女になってから、そういうのは少し鈍った気もする。とはいえさっぱりしたいという気持ちに変わりはなく、私はぽんぽんと服を脱いでお風呂に入ることにした。お湯は焼き物の浴槽によって、ほどよい熱さを維持している。レンガのように貼り合わせた痕跡を感じながら、これにも見覚えがある気がしていた。




