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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と村巡り

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第940話 クロスステッチの魔女、魔法の実演をする

「まじょ、さまー! まほうみせてー!」


「みたーい! どんなの?」


「どんなまほうがあるの?」


 村の子供達がそうねだってきたので、私は皆を見回して聞くことにした。


「パンのおかわりはいかが? 白くてふわふわの、おいしいパンよ。『輪振る舞い』に一品、足させてくださいな」


「この都会のパンがまた食べられるなら、いいが……なあ?」


 村長の問いに、人々が頷いた。なので私は立ち上がり、カバンから魔法を取り出す。もちろん、パンを作る魔法だ。ちゃんと白くて、ふわふわで、まだたっぷり使えるものを出した。

 私が刺繍した魔法を、人々は不思議そうな顔で見ている。少し大きめの布なのは、大きめのパンを出すための魔法として作ったからだ。咳払いをひとつ。


「こちらの布をご覧ください、これは私が刺繍を刺した布であり、魔法です」


 せっかくなので、くるくると布の表裏を見せつつ、都会でお師匠様に見せてもらった見世物小屋の口上のような話し方を真似しながら話した。


「普通の布だね」


「魔女様、刺繍がうまいねえ」


 村の女衆が褒めてくれるのは、悪い気がしない。私は「ありがとう」と言って、布を空になった大皿の上に敷いた。


「この布に魔力を込めると……ほら!」


 魔力をいつものように込めてみせると、ぽんぽん、と軽い音と白い光が現れた。それが収まると、刺繍布の上にはパンが現れる。両手いっぱいで抱えるほどに大きく、こんがりときつね色に焼かれている。形は丸くて、こぶが沢山ついているように飛び出していた。中身が白いことを、もちろん私は知っている。この焼き色自体も、触った柔らかい触感も、黒パンとは大違いだ。


「すごーい!」


「魔女様、切り分けはこちらで」


 村長にパンを渡してから、同じものを四つ魔法で出した。パンが現れる度に、人々からは歓声が上がった。


「五つで足りる?」


「もちろん!」


 村人は百人もいないので、五つもあれば充分に行き渡るようだった。こういうものの切り分けは客人がすることではないので、村長に全部任せることにする。これは一番高位の男か、その後継者の仕事になるのは、エルロンド村でも同じようだった。さっき、ひとつ出したパンを指折り数えながら必死に切っていた。てっきり村長とか、長老とか、そういうところに配ると思ったから失敗したな……。本当に全員に配ると思ってたら、最初からこうして沢山出したのだけれど。


「白いパンなんて、結婚式みたいだねえ」


「これを連日食べられるなんて、都会はすごいな」


 こうやって言ってもらえるのは、正直嬉しかった。

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