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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
6章 クロスステッチの魔女の冬ごもり

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第94話 中古《ドール》、雪に心躍らせる

「マスター、今日も雪です!」


 僕がマスターに買ってもらえて、半年ほどが経って。空から雪が降り積む、冬が来た。

 雪というものが僕は物珍しく感じるようで、僕はいつまででもこの綺麗なものを眺めていられると思ってしまっている。だから毎朝、重い黒樫木の窓を開けて外のお天気をマスターに伝えるのは、僕の役目になっていた。マスターが任せてくれた仕事だし、外の景色を見ることも嫌いではない。うってつけだった。


「うーん、そろそろ何日か晴れて欲しいのだけれど……家の中で干すより、やっぱり外の方がいいもの」


 雪が降ったら嬉しい僕と違って、マスターは少し浮かない顔をしている。その手にあるのは、木枠に張られた魔兎の皮だった。火山石に漬け込み、マスターが手を入れた皮は、今は木枠に張られて乾かされている。屋内でも焚き火の側に置かれているものの、本当は外に出したいのだとマスターは干し始めた最初に言っていた。お日さまの光と、吹き抜ける風のふたつに乾かしてもらう方が、より丈夫になるらしい。


「ルイス、そろそろこの革でどうするか決まった?」


「うーん……迷うんですよねぇ……」


 僕はその問いを投げかけられると、困ってしまう。マスターが持ってる、暖かそうな毛皮の外套は素敵だ。眠る時のお布団に、手触りのいい布もいいけど毛皮を敷かせてもらったら暖かいだろう。僕は素直に迷ってることを話すのだけれど、マスターは決めてはくれない。


「まぁ、まだ時間はあるもの。たっぷり悩むといいわ」


 何度かこの話をすると、マスターはいつもこう言うのであった。この人は魔女で、僕は彼女の《ドール》……所有物だ。だから、マスターが着せたいものを着せ、与えたいものを与えるだけでもいいだろうに。なのにマスターは、僕に選択肢を提示する。僕に対して、選んでいいよと言ってくれるのだ。それが得難いものではないかと、最近少しずつ思うようになっていた。それが人間の頃なのか前の持ち主の頃からかはわからないけれど、僕にそういうものを提示してくれる人は、あんまりいなかった気がするから。


「マスター、僕、マスターのためにも決められるように頑張りますね」


「毛皮の使い道って、頑張って決めるものなの……?」


「僕にとってはそうなんです!」


 マスターの言葉に、僕はそう返す。困ったように小首を傾げた彼女が提示してくれた自由のためにも、僕はしっかり決めようと考え……また結局、悩むのであった。

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