表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
43章 クロスステッチの魔女と村巡り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

939/1071

第939話 クロスステッチの魔女、蜂蜜酒を傾ける

 蜂蜜の甘い酒に、岩塩を砕いて塩味をきかせたスープ。干し肉やその他も混ざっているので少し味は濃いけれど、浮き身のと薄切りにされたのと、二種類のパンがあるからあまり苦にはならなかった。


「魔女様、おいしいかい?」


「ええ。それに、『輪振る舞い』にケチつけるなんて失礼はしないわ」


「それはよかった。たまに来る新顔の商人にはよぅ、何も持ってきてくれなかったり、口では言わなくとも不味そうな顔をするのがいてねえ」


「……よく叩き出されなかったわねえ、それ」


「村で商いをした後だったし、夜に地べたの人を外へ叩き出したら、死んじまうだろ。魔女様なら、空でも飛んであっさり行っちまうだろうが」


「それはそうだわ、間違いない」


 村人は私の言葉に笑った。籠った話し方が耳に懐かしい。

 どうやら『輪振る舞い』は、北の山間部に多い風習らしい。平地ではまずあまり見られないということを知ったのは、私が山を下りてしばらく経ってからのことだった。参加者皆で食材を持ち寄り、食材を持っていけない家の者は準備を中心にやる。そうして出来上がったものを、外で輪になって食べる。村に害をなすものではない証に食材を持ち込むか働き、村人も相手を信用する証に皆でそれを口にするのだ。

 わかりやすい風習だと思うのだけれど、平地の方は——今のところ、私が知っている限りは——あまり、こういう習慣がないようだった。私の村の場合、確か、花を飾った鍋は嫁婿を外から迎え入れる時の、一番上等な『輪振る舞い』だったはずだ。ここではそういう時は、また違う飾りでも使うのだろう。


「魔女様、蜂蜜酒イケますんかあ。もう一杯おいりで?」


「頂戴!」


 旅人の鉄則。振る舞われたものはよく飲み、食べること。特に魔女である以上、どう頑張っても村人たちとは『違う』から、こうやって歓待を受けることは必要だった。向こうに無理に振る舞わせるのでなければ、その歓待の意思を断る方が失礼だし、無駄な軋轢になる。極論、「振る舞う飲み物や食べ物に毒でも入れていると疑うのか」となりかねないのだ。そうなった人の話も、聞いたことがあるし。

 というわけで、蜂蜜酒をもう一杯注いでもらった。とろりとした黄金色の液体に、甘い匂いと香草のほんのりとした香りが混ざっている。


「私はねえ、葡萄酒よりも蜂蜜酒が好きなの。近くに蜂の巣さえあれば、蜂蜜酒作りたいくらい」


「魔女様ならやれるってえ、おばあに作り方を聞いておくとええ」


 そんな雑談をしながら、もう一口飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ